遠藤功の現場千本ノックとは

 現場こそ競争力である - その信念を胸に、私はこれまで数多くの現場を訪ねてきました。過去の手帳を遡って数えてみると、その数はゆうに300を超えています。

 自ら現場に赴き、そこで起きていること、そこで行われていることを観察し、聴き、感じる。そうした「現場行脚」を通じて、私が学習したことをまとめたものが、「現場力三部作」(「現場力を鍛える」「見える化」「ねばちっこい経営」)であり、その後に刊行した「現場力復権」「競争力の原点」「未来のスケッチ」といった一連の書籍群です。

 日本の多くの現場には、ドラッカーが言うところの「知識労働者」(ナレッジ・ワーカー)が存在します。これは世界でも稀有なことです。知恵やアイデア、創意工夫を生み出すナレッジ・ワーカーが現場にいることこそが、日本企業の最大の優位性の源泉であると私は確信しています。

 私はこれからも「現場行脚」を続けます。現場を訪問すると実にワクワクします。学ぶこと、発見することがたくさんあります。そうした私の「体験」を記録として残すことを目的に、このサイトを立ち上げることにしました。

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第78話 MUJIキュポ・ラ川口店

 良品計画が展開するMUJIはこれまでに中国の店舗(第24話)と米国の店舗(第29話)を訪ね、紹介してきた。今回は国内の店舗であるキュポ・ラ川口店を訪ねてきた。
 この店舗を訪ねた理由は明快だ。2013年度下期の業務改善提案活動で「社長賞」を受賞したからだ。良品計画では店舗業務の効率化を推進するためにボトムアップ型の業務改善提案活動を10年以上に亘って行っている。半年に一度、本部スタッフや店長たちが集まる良品集会で優良店舗は表彰される。社長賞、優秀店舗賞、改善提案賞、事務局特別賞の4つの賞を計11店舗が受賞した。
 キュポ・ラ川口店が社長賞を受けた理由はこう記載されている。「品出しリストや新勤務管理システム等販売部門政策に対しての改善提案が優れ、店舗が直面するどんな問題にも前向きに業務改善案を出してくれました。今期は要望週間の提出件数も全国3番目に多く、店舗全体で改善提案に励んだ事が伺えました」。
 JR川口駅東口に図書館などの公共施設とショッピングセンターを併設したキュポ・ラ川口にある。MUJIは2006年にオープンし、丸7年が経過した。
 4名の社員、21名のスタッフ数で切り盛りしている。このお店が本格的に業務改善提案に取り組むようになったのは、2013年2月に瀬田雅紀さんが着任してからである。日々の仕事に追われ、店舗の活性化が不十分だと感じた瀬田さんは業務改善提案活動をうまく使って、スタッフの活性化につなげたいと考えた。
 現場で日々の仕事に携わっているスタッフたちは業務改善につながるヒントや気付きを持っていた。「こうすればもっと楽になるのに・・・」といったアイデアも現場にはあった。しかし、日々の仕事に追われ、そうした現場の知恵は顕在化せず、眠ったままだった。
 瀬田さんはなぜこの店舗で業務改善提案を阻害している理由を考えた。ひとつ目はせっかく改善のヒントに気付いたにも関わらず、それを指摘する仕組みがないことだった。せっかくの気付きもそれを表面化させなければ、「まっ、いいか」と消えてしまう。
 瀬田さんは何かに気付いたら、簡単にすぐ記入できるシートを用意した。「顧客視点」「改善提案」「店内改善」の3つの切り口で、意見や問題点、改善策を記入するシートだ。気付いた時にこのシートに簡単に記入してくれれば、現場の気付きが消え去ることはなくなる。
 
78MUJI.jpg記入シート


 二つ目の阻害要因は、そうした現場の気付きをパソコンから入力する時間が確保できないことだった。せっかくシートが集まっても、それをパソコン上で入力し、本社の関連部署に送らなくては、現場の気付きは届かない。やがてタイミングを失って、うやむやになってしまう。
 そこで瀬田さんは比較的手隙の時間帯をあらかじめブロックし、集中して入力する時間を確保した。これによって、現場の気付きが本社に届くようになった。こうした阻害要因を丁寧にクリアーすることによって、キュポ・ラ川口店の業務改善提案の取り組みは徐々に活性化していった。
 2013年上期は、まず「数を増やす」ことに注力した。たとえ小さな気付きでもよいので、みんなでちょっとした気付きを積極的に上げるよう働きかけた。その結果、上期には52件の業務改善提案が提出された。これは全国で7番目の件数だった。
 そして、2013年下期には「数も質も」に取り組んだ。その結果、件数は74件と全国で2位、採用された件数も7件で全国2位となった。これが評価され、社長賞の受賞につながった。
 提案内容のひとつずつは小さな事柄が多い。しかし、現場でしか気付かない地に足の着いた指摘であり、提案だ。
 たとえば、スタッフたちの勤務管理シートを毎月承認する際、パソコン上ではスキャン‐シフト‐承認の順で並んでいる。しかし、実際に現場で作業を行う際には、シフト‐スキャン‐承認の順でチェックを行っている。そのため、いちいちパソコン上で入力の位置をスクロールさせなければならず、効率性が悪く、作業上のストレスも感じていた。
 これはキュポ・ラ川口店だけの問題ではなく、全店に共通し、しかも毎月発生する非効率だった。この指摘を受けて、本社の人事課は早速修正に取り掛かり、非効率がなくなった。現場目線のこうした業務改善提案が全社の業務システムの質を高め、そしてそれによって店舗の活性化にもつながっている。
 瀬田さんはキュポ・ラ川口店だけでなく、同じブロック内の他の3店舗にも業務改善提案の取り組み活性化を働きかけている。個店単位ではなく、ブロック単位で知恵を絞り、成功事例を共有すると共に、競争意識を持ちながら相互に刺激し合う関係だ。その成果は明白だ。2013年度下期には社長賞を受賞したキュポ・ラ川口店以外にも、同じブロック内の浦和パルコ店が改善提案賞を、まるひろ南浦和店が事務局特別賞を受賞した。「点」の動きが「面」の動きへと広がっている。
 こうした業務改善提案活動が成功するためには、現場の取り組みの活性化だけでは不十分だ。なにより大事なのは本社の対応である。
 良品計画では店舗からの提案に対し、本社の関連部門が迅速に解答し、採用/不採用に関わらず丁寧にフィードバックすることを心掛けている。勤務管理シートの提案を例にとると、キュポ・ラ川口店が提案を行ったのは11月23日。その6日後の11月29日には人事部から回答が来ている。1週間以内にフィードバックするのが原則となっている。
 また、いくら提案が採用されても、その後のアクションが遅くては現場のやる気は高まらない。現場の気付きが採用され、それが直ちに全店展開されることが現場のやりがい、達成感にもつながる。ボトムアップの動きを定着させ、競争力へと転換するためには、本社の対応こそが鍵なのである。


訪問先

MUJIキュポ・ラ川口店

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