第74話 ルネサスエレクトロニクス

 今年に入り、ルネサスエレクトロニクスの3事業所を訪ねてきた。愛媛県の西条事業所、群馬県の高崎事業所、そして茨城県の那珂事業所の3ヶ所だ。

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    西条事業所      高崎事業所     那珂事業所 


 訪問の目的は、中間管理職層を対象とした講演会。長い間迷走が続く同社の現場を支えるミドル層を活性化させるために、元気の出る話をしてほしいという依頼を受け、各事業所を訪問した。
 講演を引き受けたものの、「これは難しいな・・・」と正直気が重かった。ルネサスは2014年3月期まで9期連続で最終赤字が続いている。その間に、度重なるリストラが行われている。不安と不満が交錯する中で、もし自分が講演を聴く立場だったら、「元気を出せ!」と外部の人間に鼓舞されても虚しく響くだけだ。
 それでも、私は出向くことにした。たとえ人数は少なくとも、私の話に共感してくれる人がいるのあれば、訪ねていって、話そうと思った。
 ルネサスは日立製作所、三菱電機、NECの3社の半導体部門が母体となった会社だ。三菱電機出身である私には、少なからず思い入れがある。ルネサスの再生は、日本のモノづくりが真に復活するためには欠かせない要素だと思っている。
 講演会は重苦しい雰囲気でスタートした。しかし、まっすぐ前を見据えて、熱心に私の話に耳を傾けてくれる人も少なからずいた。三菱電機の主力半導体工場であった西条事業所では、講演後の質疑応答の中で「元気が出ました。前向きに頑張ります!」という言葉をいただいた。訪ねてよかったと思った。
 ルネサスは数奇な運命を辿っている会社だ。2003年に日立製作所と三菱電機の半導体部門が分社・統合し、ルネサステクノロジが生まれた。
 2006年度の同社の半導体売上高は国内第2位、世界第6位。システムLSIの分野では世界1位のシェアを誇った。
 しかし、熾烈なグローバル競争に勝ち残るためには、更なる統合・再編が必要となり、2010年にルネサステクノロジはNECエレクトロニクスと合併。社名もルネサスエレクトロニクスに変更した。
 3つの会社が統合し、総合力を発揮すれば、世界に通用する半導体メーカーになれる「はず」だったが、現実は甘くはなかった。ルネサスは開発から生産、販売をすべて自前で抱えることにこだわったが、そのコスト負担はあまりにも膨大だった。
 自前の工場を持たない「ファブレス経営」を展開する米国のクアルコムが携帯電話向け半導体で圧倒的な強さを誇るなど、「身軽な経営」を標榜する海外勢に大きく遅れをとった。
 3社が一緒になるということは、技術や販売面でのシナジーも期待できる一方で、事業所や設備の「供給過剰」を抱え込ることも意味している。大胆な再編を行わなければ、統合メリットを生み出すことはできない。ルネサスは国内に14もの工場を抱えるが、出身母体である3社それぞれの思惑もあり、なかなか思うように再編を進めることができずにいた。
 企業再生において、「リストラは一度だけ」というのが鉄則だが、ルネサスはこれまでに複数回のリストラを追加的にやらざるをえなかった。それが疑心暗鬼を生み、現場の士気低下につながった。
 しかし、ここにきてようやく再生の道筋が見えてきつつある。2013年に産業革新機構、トヨタ、日産など9社を割当先とする1500億円の第三者割当増資を行い、産業革新機構が筆頭株主となった。代表取締役会長兼CEOには元オムロン社長の作田久男氏が就任した。
 私が3事業所を訪ねた直後に、抜本的な構造改革計画が発表された。国内14工場の内、5工場を閉鎖・売却する。そして、半導体の回路を形成する前工程と半導体のチップに周辺部材を取り付ける後工程に分離し、それぞれ工場運営会社を設立する。
 前工程は那珂事業所を中核とする「ルネサスセミコンダクタマニュファクチュアリング」、後工程は高崎事業所を中核とする「ルネサスセミコンダクタパッケージ&テストソリューションズ」が設立される。試作品や少量生産は国内で手掛けるが、量産は外部の受託生産会社(ファウンドリー)を使うことも視野に入れている。
 さらには、研究開発拠点の統廃合も進める。また、工場運営の集約によって余剰になる管理部門などの約1000人を対象に早期退職も実施する。
 こうした再建策は大きな痛みを伴うが、再生には不可欠だ。統合した3社の思惑や綱引きで抜本的な再編ができずにいたが、産業革新機構の傘下に入り、ようやく合理的な再生の道筋が描かれつつある。
 しかし、構造改革は再生の入り口にすぎない。事業を再編し、コスト構造にメスを入れることは、勝つための前提条件を整備することだ。再生を果たし、世界の勝ち組に入るためには、勝利の「青写真」を描き、それを遂行できる現場を再構築する必要がある。
 日経新聞によると、ルネサスのある幹部は「汎用品になりやすい家電向けからは距離を置く。売り上げが安定している産業機器向けに軸足を移す」と語っている。液晶向けからは撤退し、世界で4割強のシェアを握る車載用マイコンや産業機器向けの開発に注力する方針だ。
 2011年3月の東日本大震災の際、ルネサスの8工場が操業停止を余儀なくされた。特に、マイコンやカーナビ用システムLSIの主力拠点である那珂工場は大きな被害を受け、部品の供給がストップし、自動車業界などは甚大な影響を受けた。ルネサスという会社の存在意義、価値が再認識された出来事でもあった。
 技術力はある。潜在的な現場力も高い。必要なのは、世界の潮流を読む戦略眼、意思決定と実行のスピード、そして組織をひとつに束ねるマネジメント力だ。
 ルネサスという社名は、「Renaissance Semiconductor for Advanced Solutions」を標榜して名付けられた。自らの「復興」を実現するには、トップダウンの構造改革とボトムアップの現場力の「併せ技」が不可欠だ。


訪問先

ルネサス エレクトロニクス株式会社 高崎事業所、那珂事業所、西条事業所

  • 群馬県高崎市西横手町111/茨城県ひたちなか市堀口751/愛媛県西条市ひうち8-6
  • http://japan.renesas.com/

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