第75話 JA活力ある職場づくり全国研究発表会

 全国農業協同組合中央会(JA全中)が主催する「第3回JA活力ある職場づくり全国研究発表会」に出席した。これは全国のJAを「職場」から元気にし、組織を活性化させ、ひいては地域や農業の振興につなげようとするボトムアップ型の取り組みである。

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 この運動が始まったのは、今から5?6年ほど前のこと。私はスタート時から外部アドバイザーとして側面支援してきた。
 JAの取り組み事例を共有する全国研究発表会は今回が3回目。まだまだ工夫の余地は残されているが、職場活性化によって風土改革につなげようとする動きは少しずつ広がりつつある。
 JA全中はこれまでにも職員の育成、組織の活性化には力を入れてきた。教育・研修を軸とする「人づくり」、やる気を喚起する人事制度などを整備する「制度づくり」は、しっかりとした基盤が出来上がっている。
 しかし、それによって組織が活性化しているかというと、まだまだ物足りない。むしろ、全国的に進めてきた合併の推進による大規模化によって、組織風土という面では大きなマイナス面が生まれている。
 平成10年度には全国に1833あったJA(単協)は、25年度には703にまで集約化されている。大規模化による合理化、効率化は生き残りのためには不可欠であるが、一方で家族的な雰囲気は消え去り、職員の顔が分からない、組織が複雑化し、縦割り組織の弊害が出るなどの問題が顕在化している。
 あるJAが社員満足度調査を行ったところ、「仕事にやりがいがあるか?」という質問には64.7%の人が「はい」と答えているのに対し、「職場に活力があるか?」には32.4%、「JAへロイヤリティはあるか?」には23.5%の人しか「はい」と答えていない。これはある一JAの調査にすぎないが、程度の差こそあれ、全国のJAは同じ問題を抱えている。
 そうした中で、様々な施策を講じ、効果を上げているJAも存在する。私もいくつかのJAを訪問し、その取り組みを勉強させていただいた。愛知県のJAあいち知多、兵庫県のJA兵庫六甲、福岡県のJA福岡市などは経営層と中間管理職、職員が一体となった、地に足の着いた取り組みを展開し、成果も上げている。
 JAに対して私がステレオタイプ的に抱いていたイメージを覆すような革新的、挑戦的なJAが存在することを知って、私は驚いた。こうしたJAが増えれば、日本の農業の未来はけっして暗くないと信じるに足るだけの熱と知恵を秘めていた。
 私はメディアに操られ、「JAとはこういうもの」と画一的なJA像を信じ込まされていた自分を恥じた。やはり、「現地現物」が大切だと再認識した。
 しかし、こうしたJAが「例外」であるのも事実である。多くのJAは昔ながらの意識、価値観を引きずり、脱皮できないでいる。
 合併により、いくら「体格」を大きくしたところで、「体質」が変わるわけではない。大きくなることは、むしろ「体質」の劣化を助長しかねない。
 JA全中の問題意識はここにある。どうすればひとつずつのJAを活性化させ、新しい農業の振興に向かうエネルギーを湧き上がらせることができるのか?
 そのひとつのアプローチが「現場力」だ。トップダウンではなく、地域に密着し、組合員(農家)に最も近い農業の最前線であるJAのそれぞれの職場を如何に元気にするか?トップダウンで推し進めてきた合併・再編の流れとはまったく異なるボトムアップの取り組みを強化することが今だからこそ求められている。
 「人づくり」「制度づくり」に加えて、「3本目の矢」として展開しているのが「職場づくり」である。「活力ある職場づくり」とは、JAという組織の「体質」をつくり込むことに他ならない。
 当日は約70名が参加した。北は山形から南は大分まで、各県の中央会や単協の人事・教育・経営指導の担当者たちが集まった。
 そして、「職場づくり」に取り組む3JAの発表が行われた。山形県のJA鶴岡は東日本大震災の被災地支援を軸に職場活性化につなげた事例を報告した。この活動は若手社員が組合長に直訴するというまさにボトムアップでスタートし、2011年6月から既に27回実施されている。
 役職員、女性部、青年部らが中心となりのべ237人が参加。宮城県東松島氏、女川町、福島県南相馬市で様々な支援活動に従事している。職員の意志による自律的なスタート、他の人の役に立っているという貢献感、そしてひとつの事にみんなで手を動かし、汗をかく協働作業の実施など、職場活性化のヒントが詰まっている。
 熊本県のJAかみましきは「支所」を拠点にそれぞれの地域にあった活動を展開している。毎月、手づくり新聞を発行したり、子どもたち向けの農業体験を企画したり、地域のお祭りへ積極的に参加するなど、地域に溶け込み、地域事情に合った工夫をしている。
 本部からの画一的な指示・命令ではなく、それぞれの支所が自分たちで考え、工夫し、実行し、改善する「自律型組織」をつくることが「職場づくり」の目的である。自律した支所が、相互に連結し合い、学習し合うことによって、職場の体質は間違いなく向上する。
 奈良県のJAならけんでは「CS(顧客満足度)改善プログラム」を柱として、各支店がボトムアップ型の取り組みを展開している。改善ミーティング、コーチング、日次振り返りミーティング、連絡ノートという4つの「ツール」を駆使して、お客様にフォーカスした活動によって、職場の活性化につなげようとしている。
 意識が顧客に集中し、顧客を「背負った」現場・職場は間違いなく強い。顧客起点の「職場づくり」は理にかなったアプローチである。
 3つの取り組み事例は、そのアプローチや重点が異なる。しかし、「職場づくり」に画一的な方法論はない。大事なのは、相互学習しながら、粘り強く継続、進化していくことである。
 活力ある職場づくりは、人間に例えると「体幹」を鍛える活動である。「体幹」は一流のスポーツ選手になるための必須要件だが、これが一気に強くなることはない。「徹底」と「執着」がなければ、人間も組織も「体幹」を鍛えることはできない。
 TPP交渉への参加など日本の農業、さらにはJAという組織に大きな影響を与える環境変化が起ころうとしている。新たな環境に対応し、変化を前向きに捉え、先取りするためには、JAという巨大組織の「体幹」を強化する地道な活動を避けて通ることはできない。


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