現場こそ競争力である ー その信念を胸に、私はこれまで数多くの現場を訪ねてきました。過去の手帳を遡って数えてみると、その数はゆうに300を超えています。
自ら現場に赴き、そこで起きていること、そこで行われていることを観察し、聴き、感じる。そうした「現場行脚」を通じて、私が学習したことをまとめたものが、「現場力三部作」(「現場力を鍛える」「見える化」「ねばちっこい経営」)であり、その後に刊行した「現場力復権」「競争力の原点」「未来のスケッチ」といった一連の書籍群です。
日本の多くの現場には、ドラッカーが言うところの「知識労働者」(ナレッジ・ワーカー)が存在します。これは世界でも稀有なことです。知恵やアイデア、創意工夫を生み出すナレッジ・ワーカーが現場にいることこそが、日本企業の最大の優位性の源泉であると私は確信しています。
私はこれからも「現場行脚」を続けます。現場を訪問すると実にワクワクします。学ぶこと、発見することがたくさんあります。そうした私の「体験」を記録として残すことを目的に、このサイトを立ち上げることにしました。
「千」というキーワードは松岡正剛さんの「千夜千冊」からヒントをもらいました。4年半で千冊の本を読破し、鋭い洞察を伴った感想をひたすら印し続けたその偉業はただただ圧巻です。
現場を「千回」踏破しよう!それが私の「志」です。そこから見えてくるものが必ずあるはずだと私は信じています。
現場は一断面にすぎません。しかし、そこは「経営の縮図」であり、「社会の写し鏡」です。現場という「ごまかしのきかないレンズ」を通して、日本企業の競争力や向かうべき方向性、社会のあり方などを考えてみたいと思っています。
正直、「千回」という「現場行脚」ができるかどうかは定かではありません。1週間に1度、現場を訪問できたとしても、1年に50回がせいぜいです。「千回」となると20年かかる計算になります。その時、私は74歳。体力の衰え、好奇心の減退を想定すると、相当厳しい目標です。
それでも、私が敢えて「千本ノック」としたのは、「現場行脚」によって私自身を鍛えることを目的としているからです。「現場力」の研究をしていながら、まだまだ「現場の本質」に辿り着いたとは言えません。ひとつでも多くの現場と出会うことによって、自分自身を鍛えたいと思っています。
ですから、「千」は遠いゴールでもかまわないのです。これまでやってきたように、ひとつずつ地道に積み上げていこうと思っています。
対象とするのは、「ビジネスの現場」です。但し、面白そうな現場があれば、非営利組織の現場にも行くつもりです。利益追求が目的かどうかは別として、「現場力」の概念が成り立つところは是非この目で見たいと思います。
業種は問いません。製造業、流通業、サービス業、建築土木業、農林水産業・・・。現場が存在するすべての業種が対象です。企業の規模も問いません。大企業であっても、事業所単位で見れば、中堅クラス、中には中小企業のような現場もたくさんあります。
また、機能的にも幅広く行脚したいと思っています。たとえば、製造業の場合なら、工場だけが現場ではありません。研究開発の現場、営業の現場、物流の現場、アフターサービスの現場など「価値創造、価値伝達に直接的に従事しているところ」はすべて現場であると定義しています。一連の価値連鎖そのものが現場であり、そこには「現場力」が潜んでいるはずです。
競争力の高いすぐれた現場ばかりに行くつもりはありません。一見ありふれた現場、問題を抱えた現場にも赴きます。一度訪問した現場を再訪することもあるかもしれません。
なぜなら、現場は「生き物」だからです。すぐれている現場も元からすぐれていたわけではありません。逆に、今駄目な現場も将来、すぐれた現場に変身する可能性を秘めています。どんな現場にも必ず「発見」や「気付き」があるのです。
あらゆる現場に学ぶべきことがある。それがこの「千本ノック」の基本精神です。すべての現場は「学習の宝庫」なのです。
この連載は不定期にお届けすることになります。仕事の都合で現場に行けない時もありますし、立て続けに現場を訪問することもありえます。気長に、我慢強くお付き合いいただければ幸いです。
さあ、「現場発見の旅」に出ましょう!