第71話 アイシン・エィ・ダブリュ

 愛知県安城市にあるアイシン・エィ・ダブリュを訪ねてきた。トヨタグループの主力部品メーカーであるアイシン精機の子会社であるが、その売上高や営業利益はアイシン精機単体のそれを上回る。
 2013年3月期の連結売上高は9750億円。連結営業利益645億円。従業員数は連結ベースで22000人を超える。
 アイシン・エィ・ダブリュの技術力、現場力はトヨタグループで高く評価されている。以前、トヨタ自動車のある幹部の方からこう言われたことが強く印象に残っている。「うちのグループ会社の中では、デンソーとエィダブ(アイシン・エィ・ダブリュの略称)は別格。他の会社はうちから何か言われるとそのまま素直に従うことが多いが、デンソーとエィダブは納得しないと言い返してくるし、自発的な提案も多い」。
 実際、事業面でもその強さは突出している。同社の主力事業はオートマチックトランスミッション(AT)とカーナビゲーションシステムの二つだが、ATは世界シェア1位、ナビも世界シェア2位を誇る。
 「世界一の自動車メーカーであるトヨタ自動車への依存度が高いのだから当たり前だろう」と思うかもしれないが、ATのトヨタ比率は47%にすぎない。
 半分以上はフォルクスワーゲンなどトヨタ以外の主要自動車メーカーへ納入している。これもデンソーと似ている。
 アイシン・エィ・ダブリュはその生い立ち自体が他のトヨタ系の部品メーカーと異なる。その設立は1969年。アイシン精機と米国の自動車部品メーカーであるボーグワーナーが合弁会社アイシン・ワーナーを設立したのが母体である。1987年にボーグワーナーとの合弁契約が終結し、1988年に現社名に変更した。
 同社は数多くの「世界初」を生み出してきたイノベーション・カンパニーでもある。1992年に世界初のボイスナビゲーションシステムの生産を開始。2006年に世界初のハイブリッドトランスミッションの生産を開始したのも同社である。
 その技術力はトヨタ以外の自動車メーカーからも高く評価されている。2009年にはポルシェから「サプライヤーオブザイヤー2008」として表彰されている。最高位受賞は日本企業として初めてである。
 2012年にはATの生産累計1億台を達成。1969年の生産開始以来、43年の年月をかけて達成した。
 事業概要の説明を受けた後、本社第2工場を見学させていただいた。ここではFF車のATを生産している。5速、6速、8速、そしてハイブリッド用である。


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高容量FF5速オートマチックトランスミッションとハイブリッドトランスミッション


 部品加工‐組立‐検査という流れの中で、トヨタ流の現場力が遺憾なく発揮されている。アルミ加工ラインではプレス機の小型化による「ゴクゼマライン」が実現され、スペース5分の1、設備投資2分の1という大きな成果を上げている。エィダブの卓越した生産技術力、現場力の高さの証明である。
 トヨタ以外の自動車メーカーへの納入が増えるということは、取り扱う製品数が増えることを意味している。ATの製品数は100種類近い。部品点数が600を超えるATの多品種少量生産を効率的に実現するには、類稀な生産技術力と愚直な現場力が不可欠である。
 ある部品加工工程での具体的な改善の取り組み事例の話を聞くことができた。ある部品の加工で品質不良が発生するが、その理由が分からない。そこで、カメラを設置し、ロボットの動きなど加工工程をつぶさに検証した。
 すると、加工した際のごく小さな切粉が部品を設置する着座に付着し、それによってわずかな位置ずれが起きることが分かった。理由が判明したので、ロボットの動作変更や洗い流す水が出るタイミングを変えるなどの対策を実施した。
 それによって、それまで月に10件ほど発生していた品質不良がゼロになったと言う。「なぜ」を繰り返し、真因を探求し、根っこの問題を解決するというトヨタならではの改善魂が現場に息づいている。
 現場には日常管理ボードが設置され、様々な指標や改善の取り組みがきわめて分かりやすく「見える化」されている。チョコ停をなくし、可動率(べきどうりつ)を高めるなど現場での地道で主体的な活動が定着し、PDCAが回っている。
 「日本にモノづくりを残すんだ!」という高い使命感を私は感じ、震えた。こうした愚直な現場力こそが、日本にモノづくりが残る絶対条件であり、逆にこうした現場力が劣化してしまえば日本にモノづくりは残りえない。
 同社のHPには「AW流ものづくりの真髄」という事例集が紹介されている。それらは単なる事例やエピソードを超え、その根底にあるエィダブ独自のDNAを示している。業界に関わらず、強い現場には長年受け継がれてきたDNAが必ず息づいている。
 しかし、企業を取り巻く環境は日々変わる。要求品質は更に高まり、要求仕様は厳しさを増す。加えて、製品のライフサイクルが確実に短くなっている。こうした変化に対応するためには、卓越した現場力を誇るアイシン・エィ・ダブリュといえども更なる進化を目指さなければならない。
 そこで、同社では現在「SLIM活動」を展開している。SはSmart、LはLean、そしてIMはInnovation Mindを表している。更なる体質強化と革新。それを支えているのは、危機感と現状不満足の精神だ。現場力に終わりはない。
 アイシン・エィ・ダブリュの経営理念はとてもシンプルだ。それは「品質至上」。
 そして、それを実現するために、3つの柱が設定されている。「お客様の満足」「自然・社会との調和」という2つの柱の前に位置付けられているのが「働く人々の満足」。
 現場力の根底にあるのは「人」である。人の可能性を信じ、人の潜在力を最大限に引き出す。こうした経営の姿勢こそが現場力に魂を注入するのは言うまでもない。

アイシン.png経営理念




 




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