私は2008年からJA全中(全国農業協同組合中央会)の「職場づくり研究会」の外部アドバイザーを務めた。全国各地のJAを活性化するためにどうすればよいのかを議論し、提言をまとめる作業を行った。
その間に、いくつかのJAを訪問する機会があった。私自身は農業やJAという組織に対してまったくの"素人"であり、一般の人々が持っている「農協」に対する昔ながらの漠然としたイメージ、固定観念しか持ち合わせていなかった。
しかし、そうした訪問を通じて、全国には新たな挑戦に挑み、日本の農業や農家を活性化させ、地域興しに貢献しようとするJAが存在することを知った。中には、一般の民間企業がお手本としなければならないような取り組みをしているJAもある。
今回は「日本一のさくらんぼの里」である山形県寒河江市にある、JAさがえ西村山が運営する「アグリランド」という産直センターを訪問した。山形は果物の宝庫である。訪問した時も、桃、葡萄、プラムなど新鮮で、東京の感覚では驚くほど安い果物で、溢れていた。
産直センターは生産者と消費者をつなげる「接点」として、全国各地のJAが積極的に展開し、人気を博している。大都市近郊では年間数百万人を集客するようなところもある。
「アグリランド」は2008年4月のオープン。まだ3年目のフレッシュな産直センターである。しかし、2009年度は21万人の来客者を集め、今年度は30万人を超える勢いである。1.7haの敷地に400台の駐車場を完備し、35名の従業員が働いている。
売上高も2009年度は約3億円だったが、今年度は4億円を想定。今年のお盆には、1日で320万円を売り上げた日もあった。今、地元では話題の人気スポットとなっている。
アグリランドの全容
産直センターの仕組みはシンプルである。基本はJAが場所を提供し、生産者が商品を持ち込み、価格を設定し、バーコードシールを貼り付けて、店頭に並べる。意欲の高い生産者はPOPなども自ら工夫し、販促活動を行う。売れ残りも自ら撤去するのがルールである。
「アグリランド」の登録者(個人生産者)は約320人。実際に出荷する人は平均200人ほどである。登録料(個人)は1万円。JAに対する手数料(生産者委託品)は15%である。
生産者1人あたりの売上高は、年50万円。月平均4万円程度だから、まだまだ大きなウェイトにはなっていない。
しかし、「それでも産直センターの意義は大きい」とお話を伺った齋藤部長は教えてくれた。消費者とダイレクトに触れ合うことによって、生産者が自然と消費者の目線になる。そして、生産者自らが価格を決めることによって、「売る」「売れる」ということに敏感になる。
山形は米だけではなく、米と果物、米と野菜というような複合農家が多い。しかも、山形でさえ「専業」ではなく、「兼業」農家が増えている。そうした流れの中で、産直センターが果たすべき役割は、間違いなくこれから大きくなる。
「OOさんのカボチャないの?」という"指名買い"も増えているという。「アグリランド」では、携帯メールで商品ごとの売れ行き状況を、昼の12時と3時に生産者に知れせるサービスを提供しているが、欠品をしないようこまめに補充する生産者も多いという。消費者が「見える」ことの価値は農業でも大きい。
「アグリランド」は地場産にこだわっている。米は100%、野菜は98%、果物も92%が地場産である。しかし、雪深い山形では、冬が困る。並べる商品がなくなってしまうのである。 しかし、この時にJAのネットワークの価値が生きてくる。「アグリランド」ではJA沖縄やJA愛媛と提携し、商品を仕入れる。「沖縄フェア」を催し、JA沖縄から人も派遣してもらい、大人気を博したという。農産品だけでなく、魚介類についてもJA大船渡と提携し、今後拡大していくという。
JAは合併・再編による大規模化を進めてきた。1998年には全国に1833あったJAは、2010年4月時点で719にまで減っている。JAさがえ西村山も1994年に、5つのJAが合併して、誕生した。
「分散の非効率」はJAの体力を徐々に奪っていった。規模化が不可欠である金融事業、運営の効率化という観点で見れば、合併・再編は合理的、必然的なな決断で言わざるをえない。
しかし、地域密着、農家との絆という観点で見れば、合併・再編という「体格」の追求は必ずしもメリットばかりではない。また、農業という特性を考えれば、「体質」を犠牲にするような「体格」の過度な追求はけっして得策ではない。
産直センターは「食と農」を担うJAによる、とても「JAらしい」取り組みである。こうした地に足の着いた活動を愚直に続けることこそが、JAの「体質」の創造につながっていく。