第13話 都田建設

 都田建設という浜松の郊外にある小さな建築会社のことを知ったのは、一冊の本がきっかけだった。この会社の蓬台浩明社長が書いた『社員をバーベキューに行かせよう!』。是非この会社をこの目で見てみたいと思った。

13 都田建設1.jpg 会社のネームプレート

 

 この本の最後に編集を担当された東洋経済新報社の井坂康志さんの名前を見つけた。井坂さんは以前からの知り合いである。早速井坂さんにお願いして、今回の訪問が実現した。

 本のタイトルにある通り、この会社では毎週木曜の昼に、約40名の社員全員でバーベキューをする。どうせ訪問するなら、バーベキューに参加したいと思い、木曜に出掛けたのだが、あいにくの雨。バーベキューは中止となってしまった。代わりに、蓬台社長からじっくりとお話を伺うことができた。

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社内にはお客様の写真が一面に貼られている

 

 都田建設はけっして大きな会社ではないが、「感動の家づくり」が口コミで広がり、この住宅不況の中、着工が3ヶ月先まで順番待ちという人気ぶりである。注文住宅新築を中心に、リフォームや庭造り、インテリアショップなども手掛けている。

 都田建設の出発点は、1986年に現会長の内山覚氏が設立した内山建築店である。2007年に蓬台氏が社長に就任し、「感動の家づくり」をコンセプトに業容を拡大している。

 この会社に営業マンはいない。モデルハウスもない。にもかかわらず、これだけの業績を上げているのは、都田建設の社員たちが生み出す「感動」をお客様が高く評価し、それが評判となって地域に広まっているからである。

 単に家を設計し、建てるのではない。「家づくりそのものを感動の時間にし、記憶に残るような体験にしたい」というのが、都田建設のコンセプトであり、思いである。

 私自身の家づくりの体験を振り返ってみても、残念ながら「感動」が思い当たらない。住宅メーカーの選定から始まり、何十回という打ち合わせ、地鎮祭などのセレモニーなど一連のプロセスを辿ってみても、「不快」とは思わないまでも、「快」という体験がない。そこにたったひとつでも「感動」があれば、まったく違った家づくりになっただろうと思う。

 「家づくり」だけでなく、「感動づくり」にこだわるこの会社では、社員一人ひとりが常に「感動」を意識し、アイデアをもちより、みんなで実践している。だから、仕事に取り組む姿勢が、一般の会社とはまるで違う。全員がリーダーであり、仕事を「こなす」のではなく、「自己表現する舞台」だと認識している。

 もしかしたら、「感動」という言葉を使うと、誤解を与えるかもしれない。私が感じたのは、人に対する「心遣い」である。この会社には、さりげない「心遣い」が溢れている。

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     お客様用のスリッパにはお客様自身が絵を描き、専用のスリッパになっている 

 

 

 私が滞在したほんの数時間という短い時間の中でも、いくつもの「心遣い」に出会った。会議室で蓬台社長からお話を伺っている時に、お茶を持ってきてくれた女性社員の方は、「今日はちょっと寒いので、少し熱めにしました」と私に小声で語りながらお茶を勧めてくれた。

帰りがけ、蓬台社長の車で送っていただいたのだが、雨の中、オフィスから車までの数メートルの距離を社員の人たちが傘をさして、私を車に乗せてくれた。そして、車が出発する時は、みんなで車が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。                     

ひとつずつは小さいことかもしれない。しかし、そうした「心遣い」の気持ちこそが、「感動」を生み出す源泉だと確信した。

 しかし、蓬台社長は「"感動の家づくり"を社内で最初に打ち出した頃は大変だった」と吐露する。都田建設の社員の年齢層は、20代から70代までと幅広い。年齢層が高い社員の中には、「感動」という言葉に気恥ずかしさを感じたり、「いい家さえ造ればいいんだ」という職人気質から抜け出せない人も数多くいたと言う。

 「感動」を売り物にするためには、まず自分たち自身が「感動体質」にならなければならない。感動できる人間でなければ、感動を提供できる人間になれるはずもない。

 そうした社内の"温度差"を解消するために、蓬台社長が始めたのが、「バーベキュー」である。会社がまだまだひとつになり切っていない。社員のみんながひとつになれることを毎週やりたい。そうした蓬台社長の強い思いから、手探りで始まったのが毎週木曜の昼に行われる全員参加のバーベキューなのである。

 2008年の夏からスタートし、既に100回以上行われている。みんなが集まり、みんなで協力し合い、みんなで笑顔でランチをとる。たった1時間、予算もわずか1万円だが、そこから生まれる一体感や連帯感には計り知れない価値がある

 

13 都田建設5.jpg バーベキュースペース

 

 都田建設ではバーベキュー以外にも、ユニークな仕掛けがたくさん施されている。社員全員をニックネームで呼ぶ(蓬台社長も"ダイちゃん"と呼ばれている)、エコの象徴として"マイ箸"を使い、必ず首からぶら下げる、年に4回、社長と社員との個人面談を行う・・・。すべては「チームがひとつになる」ためのものである。

 今回、残念ながらバーベキューには参加できなかったが、社員の皆さんと記念写真を撮ったり、限られた時間だったが触れ合うことができた。社員みんなが笑顔!これが私の受けた印象だ。13 都田建設6.jpg

内山会長直筆のメッセージ 

 

 しかも、それがけっして「つくられた笑顔」ではなく、東京から来た私を心から歓迎していることが伝わるような笑顔である。会社や仕事が好きで、楽しんでいなくては、こういった笑顔はできない。こうした笑顔で接してくれることが、なによりの「感動」である。

 バーベキューに参加するための再訪を誓って、浜松をあとにした。

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 雨の中、見送ってくれた都田建設の皆さん


訪問先

株式会社都田建設

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