「ガリガリ君」は発売開始して実に30年。さまざまなテイストの新商品が投入され、その売上高は100億円に達する。1本60円(発売当時は50円)の商品で100億円の売上高を上げる驚異的な商品である。
今では、子供だけでなくお年寄りがケース買いをすることも見受けられるという。自分の孫やそのお友達に配り、世代をつなぐコミュニケーションにも有効に使われている。
赤城乳業のここ数年の業績はきわめて好調である。このところ続く夏の猛暑もあり、2006年には200億円だった売上高は、2010年には300億円に達した。「ガリガリ君」以外のアイスクリームも好調で、特にセブン・イレブン向けのPB商品が大きな柱のひとつとなっている。以前、セブン・イレブンのマーチャンダイザーへインタビューした際、「赤城乳業の商品提案力はすごい」という話を聞いたことを思い出した。
実際、1年間に投入される新商品の数は、実に250点!以前には「カレーアイス」や「ラーメンアイス」なども開発したことがあるという。この会社にはそうした「遊び心」を許す風土が根付いている。
深谷の本社で井上秀樹社長にお話を伺った際、「うちは『強小カンパニー』を目指している」と何度も話されていたのがとても印象的だった。「小さくても、強い会社になる」ことを目指し、社員のモチベーションを高める工夫をしてきた。その結果、アイスクリームメーカーは全国に数多くあるが、「アイスクリーム専業のナショナルブランド」は赤城乳業とハーゲンダッツのみという独自のポジショニングを確立した。
同社は今年創業50周年を迎える。従業員数は約350名。平均年齢も32歳と若い。300億円の売上高を350名の従業員で達成している。1人当たり1億円近い売上高を上げていることになる。
これは少数精鋭で、しかもモチベーション高く働いている証拠である。実際、井上社長は「我社の財産を『社員のモチベーションの高さ』とする」と打ち出し、様々な仕組みや工夫を凝らしている。
たとえば、同社は株式非公開であるが、社員(管理職以上)の持ち株比率が高い。そのことによって「自分たちの会社」というオーナーシップ意識が高まり、運命共同体が形成されている。
また、「委員会経営」と呼ぶ、社内横断的プロジェクト・委員会の取り組みも同社の特徴のひとつである。現在、13の委員会があり、課長や課長補佐クラスが委員長として主導的に活躍している。
そのひとつである「効率的生産性管理委員会」では年間6億円にも登る廃棄物を減らすための方策が議論・実行され、そこで上げたコスト削減効果は社員たちに還元された。
これ以外にも、「りくなび(採用)」、「ホームページ」「新商品アイデア研究会」などがあり、社員がどの委員会・プロジェクトに参加したいかを自己申告し、調整した上で、指名される仕組みになっている。
本社で井上社長のお話を伺った後、同社の最新鋭工場である「本庄千本さくら『5S』工場」を訪問した。『5S』とはものづくりの現場の基本である「整理・整頓・清掃・清潔・躾」を指しているが、それが工場の名称に付けられている例を私は他に知らない。それほど『5S』を重視し、徹底させているという経営の意思表示でもある。
この工場は2010年2月に竣工。投資総額100億円を投じた、日本一のアイスクリーム単体工場である。工場の壁面やエレベーターの入口には「ガリガリ君」のイラストが掲げられ、独特の笑顔で訪問者を歓迎してくれる。
「ガリガリ君」が掲げられた新工場 「ガリガリ君」のエレベーター
その生産規模は第2期を終える今年中には年産5万キロリットル、将来的には8万キロリットルを想定している。これは日本国内のアイスクリーム生産量の約10%を占める。
1時間に4万本を生産する最新鋭の生産設備は圧巻。「ガリガリ君」が次から次へと生産されていくさまは実に壮観である。
この工場のコンセプトは「見せる / 観せる / 魅せる工場」。従業員や地元だけでなく、広く見学者を受け入れ、ファンづくり、ファンとの交流を担う工場を目指している。最新鋭の設備だけでなく、改善活動などの現場力強化にも力を入れている。
赤城乳業は自分たちの立ち位置を、「アイスクリーム専業」と定めている。ホームページのメッセージにも、「アイスクリームで、みなさんの豊かな暮らしや楽しいひとときを演出できる。そんな企業であり続けたいと考えています」と謳っている。
しかし、その過程では様々な葛藤や失敗があった。夏の暑い時期に需要が集中する、そして気候によって左右される等のデメリットを克服するため、冷凍食品やチルド商品、ケーキなどにも挑戦したが、ことごとく失敗した。また、海外の需要を取り込もうと、アメリカ本土やハワイ、中国などにも展開したが、嗜好の違いや価格が合わないなどの理由で断念している。
そうした試行錯誤の末、辿り着いたのが、「本業一本」でやること、そして「強小カンパニー」をつくり上げることであった。腹を固め、腰を入れて、全社一丸で本業に取り組んでいる会社は強い。「ぶれない」、「人を大切にする」という二つの指針が、赤城乳業という「エッジの効いた会社」を創り出している。
社内報「ガリプレス」