第16話 大里綜合管理株式会社

 千葉県大網白里町にある大里綜合管理という小さな不動産会社を訪ねてきた。この会社の野老(ところ)真理子社長との出会いは、昨年行われたJA(農協)の全国大会だった。私と野老社長がゲストスピーカーとして招かれ、この会社の興味深い取り組みを知った。「日経ビジネス」(2011年1月10日号)でも取り上げられ、売上高5億円程度の中小企業でありながら、大きな注目を浴びている。
16 大里綜合管理1.jpgデザイン性の高い社屋

 最寄りのJR大網駅から歩いて15分ほど。街道沿いにお洒落なデザインの社屋が見えてくる。中も、オフィス然としておらず、明るく、解放的で、リゾートホテルのアトリウムにでもいる感覚にさせる。
16 大里綜合管理3.jpgリゾートホテルのようなオフィス
 
 この会社の最大の特徴は、わずか50人の社員でありながら、年間150もの地域貢献活動を行っていることにある。しかも、その活動内容は多岐に渡り、実に幅広い。
 こうした活動の原点となったのは、清掃活動である。自社オフィスだけでなく、オフィス周りの道やガードレール、近隣の駅、病院、海岸など地域を丸ごときれいにする活動が広がっている。
 また、オフィススペースを有効に活用した活動は、さらに多様である。平日の昼間でも、オフィスを活用して様々なカルチャースクールが地域住民のために開かれている。ヨガ、太極拳、フラワーアレンジメント、パソコン入門などその数は30近い。
 昼になると、地域の料理自慢の主婦たちが自慢の料理を振舞うランチを提供している。そして、昼休みには、「お昼休みコンサート」と称して演奏会が行われる。
16 大里綜合管理4.jpgお昼休みコンサート
 
 午後には、近所の小学生たちが集まり始め、学童保育が行われる。これ以外にも、落語家を招いた寄席や地元・九十九里での地曳網、房総100キロ歩き、農業体験、そば打ちなど地域貢献活動という枠を超えた、Education、Entertainment活動が発信されている。
 なにより凄いのは、こうした活動がすべて社員の自主的な提案によって始まり、運営されていることである。だから、そこには一切「やらされ感」「強制感」がない。
 毎月の業務改善会議で、月に30件程度の提案が出され、みんなで議論し、新たな貢献活動の実施が決定される。中には、ひとりで3つも4つもの活動に従事している社員もいる。
 この会社では不動産会社としての通常業務と地域貢献活動の「垣根」がないように思える。どちらも同じ重要性を持つ「二つの柱」になっている。けっして"おまけ"で地域貢献活動をやっているわけではない。
16 大里綜合管理5.jpg手作りの広報ニュースレター
 
 もちろん、その背景として不動産業という特性は無視できない。地域貢献活動を行うことによって、地域の人たちとの結び付きが生まれれば、それは本業に跳ね返ってくることもありえる。また、こうした活動によって町の魅力が高まれば、不動産価値の高まりも期待できるし、この地域に興味を持つ人も増える。地域の発展が会社の発展につながるのは間違いない。
 しかし、野老社長はそうした経済的なメリットよりも、社員教育としての価値を強調している。こうした活動を通じて、社員たちの「気づく」力を養いたいという思いがその根底にある。
 ただ漫然と与えられた仕事を日々「こなす」のではなく、たとえ小さなことでも自分で気づき、そして自分のできることを見出し、自分で始める。そうした能動性、自発性の高い社員を育てることが最大の目的なのだ。
 日経ビジネスの記事でも触れられているが、こうした活動のきっかけは15年前に、管理地の伐採作業中に大学生を死なせてしまうという事故を起こしたことにある。環境整備の重大性に気づいた野老社長は、就業前に1時間社員全員で隅から隅まで掃除をするという決まりを作った。
 それが発端となって、清掃に留まらず、地域のためにできることは何でもしようと活動の輪が広がっていった。「用事がなければ行かないところ」である不動産会社を、もっと身近で、楽しく、親しみやすい場所にしたいという野老社長の思いが社員全員に浸透し、独自の経営に発展している。
 「全員経営」もこの会社の大きな特長であり、強みである。月1回全体会議を開き、月次の損益も社員たちに開示する。年に一度、最優秀社員を選ぶ「大里スピリット賞」を制定し、社員ひとり一人が1票持ち(社長も1票)、投票する。
 その際の記念品は社員ひとり一人が自ら用意した千円程度のプレゼント。受賞者は年に一人か二人。一人であれば、みんなのプレゼントをもらうことができる。
 また、1票でも投票されれば、投票された人の名を上げ、投票理由を必ず読み上げる。たった一人でも自分の努力を見てくれた人がいれば、それは大きな励みになる。
 「社員50人の小さな会社だからできるんだ。大企業には無理」と決めつけてはいけない。この会社が取り組んでいることの本質を理解すれば、たとえ大きな組織であっても、こうした明るく、元気で、自発的な職場を作ることは必ずできる。
 地域貢献活動とはけっして「地域のための活動」ではない。それは「自分(自分たち)自身のための活動」であることを、この会社の取り組みは教えてくれている。
 





訪問先

大里綜合管理株式会社

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