華やかな東京の目抜き通り、表参道に一般の民間企業も見習うべき経営を行っている病院がある。その名は伊藤病院。
「甲状腺を病む方々のために」を理念として掲げる甲状腺疾患の専門病院で、その分野ではつとに有名な民間病院である。その開設は昭和12年。まもなく75周年を迎える名門病院だ。
甲状腺疾患はその9割は女性の患者で、年齢層も幅広い。その割には、医者の数は不足気味で、伊藤病院には日本全国から患者が押し寄せる。1日の平均外来患者数はなんと946人(2009年度実績)。1日千人近い外来患者を診察するためには、スムーズなオペレーションの設計と実行が不可欠である。
東京23区内に居住の患者は4割にすぎない。残りの6割は全国津々浦々から、伊藤病院を頼って来院する。
しかも、その約5割は紹介状持参である。全国の病院や検診施設とネットワークを結んでおり、全国的に伊藤病院のブランドが確立している。
伊藤病院の経営としての卓越性は、「戦略」と「オペレーション」の両輪が噛み合い、ひとつの有機的なビジネスモデルにまで高められていることである。
戦略面では、この病院は甲状腺疾患診療に「専門特化」している。三代目である伊藤公一院長はそれを、「守備範囲と適正規模の徹底」と表現する。伊藤病院はあくまで「家業」(ファミリービジネス)であり、「身の丈」を超えるような拡張を戒めてきた。
その一方で、専門特化する甲状腺疾患の分野においては、甲状腺を患うすべての患者に対応できるよう、完璧な自己完結型医療を目指し、実現させてきた。「狭い」からこそ、「深さ」を追求できるのである。その「深さ」がオペレーションのあちこちに反映されている。
病床数は60床と小規模であるが、うち7床はラジオアイソトープの専用病床であり、重症のバセドウ病や甲状腺癌の治療では、日本最大の症例数を担っている。
また、数多くの診療を円滑、スピーディに行うため、血液検査と超音波検査は"内製化"している。外部の検査機関に委託すれば10日近くかかるが、なんと30分以内で検査結果報告までを完了できる。これによって外来を「予約制」にすることなく、しかも「待たせない」で対応することが可能になっている。
IT化にも力を入れ、2003年に紙カルテから電子カルテに一気に更新した。その際も、既存のパッケージソフトではなく、伊藤病院のオペレーションに見合ったシステムを独自開発することにこだわった。
そして、伊藤病院の最大の強みは、その活性化した現場にある。常勤スタッフは約200名。その内、フルタイムの医師は27名。事務部門のスタッフの多くは、日本ロシュ、スズケン、SRIなどヘルスケア関係の一般企業から採用している。
伊藤院長は専門病院の弱みとして「慢心と退屈」を上げる。同じことばかりを繰り返していると、個人も組織もマンネリに陥る。そうした気持ちの弛みを避けるためにも、全員で常に勉強し、創意工夫することが大切だと、伊藤院長は強調する。
学術研究に力を入れ、学会への参加、発表を奨励したり、病院全体として病院機能評価やISO取得に医師やスタッフが積極的に関与している。また、日常業務以外の活動も、「横割り」チームで取り組んでいる。たとえば、伊藤病院では『Voice』という広報誌を年4回刊行しているが、この広報誌委員会には看護師や検査技師などが部門横断的に参加し、自ら取材をするなどして編集にあたっている。
その他にも、マナー研修やメイクアップ研修など接遇のスキルアップにも取り組んでいる。医療機関でありながら、「サービス業」であるという認識を高める努力も怠っていない。
こうした経営を実現するには、もちろん伊藤院長自らの経営手腕とリーダーシップが欠かせない。医師でありながら、この類稀な経営力をどのように磨いたのかを尋ねると、院長自身が米国シカゴ大学に留学した際、ビジネススクールに通う学生たちと交流し、経営やサービスの視点を学んだと教えてくれた。
伊藤院長は「皆で考えながら、良いと思ったことは、スピーディに実践することを心掛けている」と語っている。経営としての高い志、合理的な戦略、そしてそれを実現する現場の仕組みと高い能力。病院経営においても、成功するための要諦は同じである。経営難に陥っている医療機関が多い中、伊藤病院は患者満足の向上と安定的な経営の両立を実現するひとつのお手本を示している。
視察の最後に、病院の地下の排水設備を見学させてもらった。一民間病院としてはとてつもなく大規模なこの排水設備は、放射線を多量に摂取しなければならない患者の治療のためにはなくてはならない設備である。
外からは見えないが、こうした目に見えない設備に多額の投資をしているところに、伊藤病院の志の高さが表れている。
「甲状腺を病む方々のために」を理念として掲げる甲状腺疾患の専門病院で、その分野ではつとに有名な民間病院である。その開設は昭和12年。まもなく75周年を迎える名門病院だ。
甲状腺疾患はその9割は女性の患者で、年齢層も幅広い。その割には、医者の数は不足気味で、伊藤病院には日本全国から患者が押し寄せる。1日の平均外来患者数はなんと946人(2009年度実績)。1日千人近い外来患者を診察するためには、スムーズなオペレーションの設計と実行が不可欠である。
東京23区内に居住の患者は4割にすぎない。残りの6割は全国津々浦々から、伊藤病院を頼って来院する。
しかも、その約5割は紹介状持参である。全国の病院や検診施設とネットワークを結んでおり、全国的に伊藤病院のブランドが確立している。
伊藤病院の経営としての卓越性は、「戦略」と「オペレーション」の両輪が噛み合い、ひとつの有機的なビジネスモデルにまで高められていることである。
戦略面では、この病院は甲状腺疾患診療に「専門特化」している。三代目である伊藤公一院長はそれを、「守備範囲と適正規模の徹底」と表現する。伊藤病院はあくまで「家業」(ファミリービジネス)であり、「身の丈」を超えるような拡張を戒めてきた。
その一方で、専門特化する甲状腺疾患の分野においては、甲状腺を患うすべての患者に対応できるよう、完璧な自己完結型医療を目指し、実現させてきた。「狭い」からこそ、「深さ」を追求できるのである。その「深さ」がオペレーションのあちこちに反映されている。
病床数は60床と小規模であるが、うち7床はラジオアイソトープの専用病床であり、重症のバセドウ病や甲状腺癌の治療では、日本最大の症例数を担っている。
また、数多くの診療を円滑、スピーディに行うため、血液検査と超音波検査は"内製化"している。外部の検査機関に委託すれば10日近くかかるが、なんと30分以内で検査結果報告までを完了できる。これによって外来を「予約制」にすることなく、しかも「待たせない」で対応することが可能になっている。
IT化にも力を入れ、2003年に紙カルテから電子カルテに一気に更新した。その際も、既存のパッケージソフトではなく、伊藤病院のオペレーションに見合ったシステムを独自開発することにこだわった。
そして、伊藤病院の最大の強みは、その活性化した現場にある。常勤スタッフは約200名。その内、フルタイムの医師は27名。事務部門のスタッフの多くは、日本ロシュ、スズケン、SRIなどヘルスケア関係の一般企業から採用している。
伊藤院長は専門病院の弱みとして「慢心と退屈」を上げる。同じことばかりを繰り返していると、個人も組織もマンネリに陥る。そうした気持ちの弛みを避けるためにも、全員で常に勉強し、創意工夫することが大切だと、伊藤院長は強調する。
学術研究に力を入れ、学会への参加、発表を奨励したり、病院全体として病院機能評価やISO取得に医師やスタッフが積極的に関与している。また、日常業務以外の活動も、「横割り」チームで取り組んでいる。たとえば、伊藤病院では『Voice』という広報誌を年4回刊行しているが、この広報誌委員会には看護師や検査技師などが部門横断的に参加し、自ら取材をするなどして編集にあたっている。
その他にも、マナー研修やメイクアップ研修など接遇のスキルアップにも取り組んでいる。医療機関でありながら、「サービス業」であるという認識を高める努力も怠っていない。
こうした経営を実現するには、もちろん伊藤院長自らの経営手腕とリーダーシップが欠かせない。医師でありながら、この類稀な経営力をどのように磨いたのかを尋ねると、院長自身が米国シカゴ大学に留学した際、ビジネススクールに通う学生たちと交流し、経営やサービスの視点を学んだと教えてくれた。
伊藤院長は「皆で考えながら、良いと思ったことは、スピーディに実践することを心掛けている」と語っている。経営としての高い志、合理的な戦略、そしてそれを実現する現場の仕組みと高い能力。病院経営においても、成功するための要諦は同じである。経営難に陥っている医療機関が多い中、伊藤病院は患者満足の向上と安定的な経営の両立を実現するひとつのお手本を示している。
視察の最後に、病院の地下の排水設備を見学させてもらった。一民間病院としてはとてつもなく大規模なこの排水設備は、放射線を多量に摂取しなければならない患者の治療のためにはなくてはならない設備である。
外からは見えないが、こうした目に見えない設備に多額の投資をしているところに、伊藤病院の志の高さが表れている。
地下の排水設備