今回、上海の2つの店舗を訪問してきた。MUJIが上海に1号店をオープンしたのは、2005年7月。現在、MUJIは中国全土で約30店を展開しているが、上海には7店がオープンしている。
まず訪問したのが、新南京西路店。上海における4号店として2009年秋に開業した。私が訪問した時は大型台風が沿岸部を通過した直後で、街に人影は少なかった。MUJIが入居するショッピングセンターも閑散としていたが、3階にあるMUJIの店舗だけは賑わっていた。明らかに、MUJI目当ての目的外の人が多い。
約180坪の店内は日本の店舗そのもので、スッキリ、垢抜けている。中国に合わせるのではなく、MUJIの価値観、世界観を中国でも踏襲している。約20名ほどのスタッフが忙しく接客にあたっているが、MUJI流のサービスも徹底させている。中国の一般の店舗ではなかなか聞くことができない「いらっしゃいませ」(歓迎光臨)の挨拶が頻繁に聞こえる。
店長の竺埼さんはまだ24歳。2008年にアルバイトとして入社し、正社員、副店長を経て、今年1月に店長に昇格した。無印良品では人を一から育てる人材育成方針をとっているが、それは中国でも同様だ。他の会社のやり方が染みついた経験者を採用するのではなく、MUJIが大切にしている考え方ややり方を仕事を通じて教え込みながら、人を育てていく。時間も手間もかかるが、MUJIの価値観、世界観を店舗で正しく展開し、お客様に訴求するには、店長の品質がなにより大切である。
新南京西路店を後にして、無限度店に向かった。ここは2009年1月のオープン。6階建ての大型ショッピングセンターの3階にある。こちらも他の店舗はガラガラだったが、MUJIは賑わっていた。MUJIが支持されているのが、店舗の活気で分かる。
MUJIの商品はけっして安いわけではない。一般的なTシャツの価格は74RMB。日本円にすると約900円。「安かろう、悪かろう」の商品はいくらでもあるが、同等の品質のローカルブランドと比べても、同じ中国製でありながら2倍程度の値差がある。MUJIというブランドに明らかに付加価値があり、それに対してプレミアムを払う消費者が確実に増えているのだ。
無限度店の店長は黄分縜さん(女性)。MUJIが中国でオープンした時からのメンバーで、いくつかの店長を経験してきた。今では、上海の7店舗全体を束ね、他の若い店長たちの面倒をみるメンター的存在でもある。
黄さんはMUJIで働きながら、結婚し、娘を産み、育て、仕事でも活躍している。中国の若い女性にとって、ひとつのロールモデルにもなりえる存在である。彼女には4歳の娘さんがいるが、「MUJIは働きやすい環境をつくってくれている」と教えてくれた。
今回の訪問で私が何より感銘を受けたのは、お会いした2人の店長が、異句同音に「無印良品という会社の"考え方"はとてもいい」と語っていたことである。彼らはMUJIという会社の価値観や世界観に共感し、そこで共に働くことに誇りを感じている。多くの会社が目先のことしか考えない中で、長期的に物事を考えようとする無印良品の姿勢を、彼らは高く評価している。
正直、MUJIの現地での給与レベルは、賃金が高騰する上海ではけっして高い方ではない。黄さんも何度も他社から引き抜きの誘いがあったという。しかし、彼らは給与だけで職場を決めているわけではない。
MUJIという会社の"考え方"に共感し、そのMUJIが中国で成功するためのやりがいのあるプロジェクトに参加しているという意識を持っている。中国人は「給料の高いところがあれば、簡単に会社を変える」と一般的には言われているが、少なくとも彼らはそうではない。「一緒に創り上げていく」という感覚を共有できれば、彼らは組織や仕事にコミットし、精一杯尽力する。
高度成長が続く中国だが、その成長も永遠に続くわけではない。やがて成長は鈍化し、安定成長という軌道に入っていく。給与だけで人が動くステージは、やがて終焉を迎える。
その時に問われるのは、「働きがいのある会社であるかどうか」である。現地の優秀な人材が仕事に喜びを見出し、「Great Place to Work」と評価されることを日本企業は目指すべきである。MUJIにはその片鱗が見え隠れする。
MUJIは今後数年をかけて、中国全土で100店舗の展開を目指している。毎年100店舗オープンを打ち出したユニクロと比べれば、その成長スピードには違いがある。しかし、業態やターゲット層が異なり、さらに手づくりの人材育成がその基盤であるから、MUJIに合った成長スピードを守ることが肝要と言える。
「なんでもあり」の中国であるから、これだけ人気のある「MUJI」も、「ニセ物」で苦しめられてきた。「本物」が上陸する前の2001年には、香港で偽物が発見された。しかも、「無印良品」「MUJI」という商標が不正先行登録され、その裁判もあり、中国に出遅れてしまった面もある。
「ニセ物」ではないが、無限度店と同じフロアに「emoi基本生活」というローカルブランドが店舗を構えていた。MUJIとfrancfrancをミックスしたようなコンセプトだが、置かれている商品はMUJIと瓜二つのものが数多く並べられていた。
「ニセ物」が出てくれば、「本物」がかえって引き立つ。MUJIが中国でいかに進化を遂げるのかが試されている。