第26話 株式会社駒ヶ根電化

 国内の産業の空洞化、日本のモノづくりの危機がじわじわと押し寄せている。そのひとつの象徴が、めっき業界かもしれない。亜鉛や錫、ニッケルなどの金属表面処理は、モノづくりには欠かせない産業であるが、リーマンショック以降、その国内の市場規模は縮小を続けている。
 日本のめっき処理市場は、2007年には約5500億円だったが、2011年には4000億円を切ると推計されている。企業数も2007年の1817社から、2011年には1554社と14%も減少している。
 市場規模の縮小、環境規制の強化、後継者難など、経営を継続するにはあまりにも困難な要素が、中小・零細企業中心のめっき業界を襲っている。特に、環境対策への設備投資に最低でも数千万円単位の投資が必要な環境規制の強化は、体力のない企業を廃業へと追い込む。力のない会社、意欲のない会社が淘汰されていくのは、ある意味で必然である。
 しかし、だからといって「めっき」そのものの価値が下がっているわけではない。むしろ、新たな分野での用途開発が広がると同時に、めっきそのものがブラックボックス技術となる可能性さえある。
 たとえば、電子部品におけるめっきはその重要性が高まっている。微細化、高密度化が進む電子部品では、めっき以外で金属と金属を接合するのが困難である。一見「時代遅れ」と思われがちなめっきの技術が、実はハイテクを支えているのである。
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            社屋                     工場入り口

 今回、訪問した長野県駒ヶ根市の駒ヶ根電化は、めっきの新たな可能性を追求し、革新的な経営に挑戦する"野心"ある会社である。昭和21年創業。昨年65周年を迎えた。
 駒ヶ根電化は自らの事業領域(ドメイン)を、「水+薬品+知恵&最適QCDめっきサービス」と規定している。めっきは水と薬品だけでできるものではない。そこに経験に裏打ちされた人間の知恵が複合されることによって、めっきは無限の可能性を秘めている。中期計画では、年商20億円、経常利益2億円の目標を掲げている。
 駒ヶ根電化でさえ、リーマンショックの時には受注量が半減したと言う。徐々にボリュームは回復したが、単価の下落は避けられない。現在は3年先を見据えた見積もり依頼が増えている。
 正社員約70名、派遣社員等を含めると約110名の陣容。零細企業が多いこの業界では、「力」のある会社である。平均年齢も41歳と、若手の採用にも積極的に取り組んでいる。
 今回の訪問で、私が最も驚いたのは、全自働の製造ラインが設置されていることだった。めっきというと、人手に頼った労働集約的なものという固定観念に囚われていた私にとっては、驚きの発見だった。


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                 全自動専用ライン

 「全自働バレル亜鉛めっき専用ライン」と呼ばれるこのラインは、ある大手部品メーカー専用のラインである。バレルと呼ばれる円筒形の"箱"にめっきする部品を入れ、いくつかの工程を経て、めっきが自動的に行われる。この専用ラインは2008年10月から稼働している。
設備自体が半地下になっており、有害物質を外に出さないための対策が施されている。24時間フル稼働が可能で、短納期にも対応できる。
 この製造ラインは大手部品メーカーが約1.5億円もの設備投資を行い、駒ヶ根電化と共同で開発したものである。設備そのものは大手部品メーカーの資産であるが、これだけの設備投資をめっきにするのだから、めっきという工程がいかに重要視されているかが分かる。ここでめっきされた自動車部品は、現在10トントラックで週3回納入されていると言う。
駒ヶ根電化では、他にも顧客専用のラインが2本存在する。いずれも付加価値の高い、電流センサーなどの電子部品のめっきを行っている。めっきのプロである駒ケ根電化は、単なる「加工業者」ではなく、一緒に新たなモノづくりを考え、実現する「パートナー」として認識されている証左である。
 昔ながらの単純なめっきは、既に中国などに移管され、日本には残らない。付加価値の高い、新たな用途開発、技術開発に挑戦することが、生き残り、勝ち残りのための唯一の道である。変わることに逡巡などしていられないのだ。
一方で、地道な現場力強化の活動にも力を入れている。全員参加の生産保全活動であるTPM(Total Productive Maintenance)に熱心に取り組み、「目で見る管理」は徹底されている。
26 駒ヶ根電化5.jpg「見える化」ボード

 駒ヶ根電化の先進性は、経営管理という視点からも、新たな取り組みに挑んでいる点である。たとえば、自動車産業に特化した品質マネジメントシステムの国際標準規格であるISO/TS16949の取得に取り組んでおり、来年夏には取得できる見込みである。これは世代間の技能継承の取り組みでもある。
 また、環境管理会計のひとつの手法であるMFCA(マテリアルフローコスト会計)を導入し、水や薬品などの使用量の削減に挑んでいる。大手企業でも未導入のところが多い中で、この取り組みは大きな評価に値する。この取り組みによって、駒ヶ根電化は2010年度の「環境効率アワード」の特別賞を受賞している。
 お話を伺った社員食堂の片隅に、達筆の書が掲げられていた。あまりに達筆で、私には判読できなかったが、これが駒ヶ根電化の社是であった。「俺がやらねば誰がやる。今やらなくていつできる」。この自発性、行動重視の姿勢が、駒ヶ根電化の発展を根っこで支えてきた。
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         社是                      「八宝心書」

 そして、この社是を受けて、2011年8月、駒ヶ根電化は「八宝心書」という新たな行動指針を策定した。この行動指針は、日頃大切にしている、大切にしたい共通の想いを、より分かりやすく現代風の八つの言葉に落とし込んだものである。候補案を出し合い、社員のアンケートを参考にまとめ上げた。
 「八宝心書」のひとつ目の言葉にはこう書かれている。「まずは私がやる。ずくを出して行動する」。「ずく」とは駒ヶ根地方の方言で、「やる気」のことである。
日本の産業競争力が、国際競争力を維持・発展するためには、中堅・中小企業の力が不可欠である。駒ヶ根電化のような独自の強みを磨き、進化を続ける企業が増えることが、日本のモノづくりが再度活性化する必須条件である。











訪問先

株式会社駒ヶ根電化

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