MUJIの米国における1号店のオープンは、2007年11月。わずか4年前のことだ。場所はSOHO。その翌年にTimes Square店、Chelsea店、さらには空港や駅内でトラベル・出張・旅行用品などを中心に展開する小型店MUJI to GOをJohn F. Kennedy(JFK)国際空港内にオープンし、現在は4店舗体制である。
2010年度の売上高はオンラインも含め、約$10M。年間客数は合計35万人。2011年度の売上高は対前年比30%超。オープンした時の勢いをまた取り戻しつつある。
最初に訪れたのは、JFK空港のJetBlue航空のターミナルで展開するMUJI to GOの店舗。JetBlueは1998年に設立された米国の有力LCC(格安航空会社)である。このターミナルだけで、年間600万人が利用する。商売の面だけでなく、ブランド認知の面でも効果は大きい。
わずか17坪の小店だが、この店は2009年に国際空港評議会北米支部が主催する「Excellence in Airport concessions Contest」(空港サービス施設の優秀度コンテスト)の「Best New Retail Concept」(ベスト新小売コンセプト)部門の2位を受賞した。旅・移動に便利な商品を中心に品揃えを「再編集」したコンパクトな業態が、空港における新たな物販サービスとして評価されたのである。
実際、品揃えを見ると、キャリーバッグや文具品などと並んで、ビーチサンダルや洗濯物を干すための小型のハンガーなどが置かれている。ビーチサンダルはフロリダなどのビーチに行く人たちが、ハンガーは地方の大学などに入学する息子や娘たちに会いに行く母親たちが買っていくと言う。「MUJI to GOに行けば、何か面白いものがある!」という評判がツーリストの間で広がっている。クリエイティブな品揃えこそMUJI to GOの生命線である。
MUJI to GOは現在国内5店舗(成田、関西、セントレア)、海外3店舗(NY、香港、台北)で展開されている。ビジネス、観光など人の移動がますます多くなる中で、とても期待できる業態ではあるが、現実的には越えなければならないハードルも多い。
メジャーな空港や駅内で店舗を開設しようとすれば、Travel Retailerと呼ばれるプレイヤーとの協業が不可欠である。最もよく知られている、世界最大のTravel Retailerは、LVMHグループの傘下であるDFSギャラリアである。空港や駅内での商業利権を持つこうしたTravel Retailer と組まない限り、メジャーな空港、駅での展開拡大は困難である。そして、そうしたTravel Retailerの歩合も含めた出店コストは当然高くなる。ビジネスチャンスは大きいものの、収益性で考えれば、闇雲に出店はできない。
JFK空港を後にして、マンハッタンに戻り、残りの3店舗を見て回った。Times Square店は2008年5月オープン。坪数約120坪。The New York Timesビルの1階にある。通りに面した全面ガラス張りの店舗で、明るくお洒落な店構えだ。ガラス越しに吊るされた「MUJI」の大きなロゴはとてもインパクトがある。
近辺のビジネスパーソンを中心に、年間約8万人が来店する。他のお店に比べると、アパレルのウエイトが生活雑貨よりも高いと言う。
次に向かったSOHO店は、米国における1号店である。90坪にも満たないけっして大きいとは言えない店舗だが、MUJI NYでは一番の集客、売上高を誇る店である。
年間14万人を超える来店客は、観光客も多いが、地元の人たちにも愛されている。トムハンクスも来店するという人気店だ。
そして、アートギャラリーなどが集中し、ポップでお洒落な街として人気の高いエリアにあるChelsea店。ここも100坪に満たないお店だが、地元の人たちで賑わっていた。
Chelsea店 Chelsea店店内
1号店オープンから4年。MUJIがニューヨークの人たちに愛され、少しずつ根付いているという確実な息吹を感じた。4つの店舗の店長は、いずれも女性。内1人は日本人だが、他の3人は台湾出身。MUJIに愛着を感じ、オーナーシップがとても強い。彼女たちが若いMUJI NYを支えている。
ニューヨークに限らず、米国の東海岸地域はMUJIにとってとても大きな可能性を秘めた市場である。華美を排した合理性、機能性、エコ性、デザイン性を重視する新しい価値観を持った人たちがとても多い。新しいものを受け入れる開放性も持ち合わせている。
北はボストン、ニューヨークを挟んで南はワシントンDC、フィラデルフィア。さらには、ニューヨークとボストンの中間にあるケープ・コッド、ナンタケットは富裕層の住む有名なリゾート地である。こうした東海岸エリアを「面」として捉え、どのように今後店舗展開をしていくのか?ワクワクするような店舗講想が描けそうだ。
海外展開というと、今はどうしても中国を始めとする新興国にばかり目が行く。もちろんそこでは巨大な需要、ビジネスチャンスが生まれているのだが、その一方で、米国は世界最大のGDPを誇る国であり、「米国での成功なくして、真のグローバルブランドとは呼べない」と言われる市場でもある。新興国の台頭、目先の景気の悪さだけで、軽視してしまったのでは、後で大きなしっぺ返しをくらう可能性もある。
世界展開を加速するユニクロは、私が訪問した直後の10月14日に世界の有名ブランドが軒を連ねる5番街に過去最大規模のグローバル旗艦店をオープンさせた。さらには、翌週21日には、小売り激戦区34丁目に世界で2番目の広さを誇るメガストアを出店した。
この2つの店舗で1200人以上の従業員を新たに採用。明るい話題の少ないニューヨークで大きな注目を集めていた。中国などアジアで出店攻勢をかけるユニクロであるが、ニューヨークは「世界のショーケースであり、別格」と考えている証左でもある。柳井正会長兼社長は「ニューヨークは賃料も世界一高いが、ここで成功すれば世界で通用する」と野望を口にする。
東海岸は目の肥えた先進的な消費者が住むエリアである。東海岸で揉まれ、存在感を示すことは、MUJIがグローバルブランドとして認知されるためには、欠かせない要素であろう。