ここでは各種電子部品に使用される銅合金材料、そして磁気デバイスなどを製造・販売している。三菱電機メテックスとしての設立は1993年。従業員数は約400名。本社に併設する相模工場と新潟県上越市にある上越工場が製造拠点である。
同社の歴史は古い。100年近く前の1919年(大正8年)に東京EC工業として合金の製造を開始。1942年に三菱電機の傘下に入り、世田谷工場となった。そして、1962年に相模原市へ移転し、三菱電機相模製作所となった。
実は、私は三菱電機海外事業本部で勤務していた頃、この工場にお世話になっている。当時、私はTVに使われるフェライトコアという部品の輸出を担当しており、その製造を担当していたのが相模製作所だったのだ。米国の大手家電メーカーRCA向けに売り込み、受注に成功したことを今でも覚えている。今回、約25年ぶりの訪問となった。
相模製作所は1993年に分社化され、三菱電機メテックスとなり、銅合金を主力製品として成長を遂げてきた。同社はリン青銅を使った合金を製造している。リン青銅合金は強度に優れ、耐力や繰り返し曲げ性が高い。
そうした特性が最も求められるのが、コネクターである。同社の合金製品の約半分はコネクター用である。それ以外は、半導体リードフレーム材として約10%、その他の多様な電子部品向けが約40%となっている。
しかし、ここでも日本のモノづくりの空洞化が大きな影を落としている。超円高などで部品メーカーなどの海外生産が進展し、国内需要は大幅に減少。同社でもリーマン以前の7?8割程度にしか回復していないと言う。
さらには、薄型TVの販売不振など日本の大手家電メーカーが地盤沈下し、スマートフォン、車載以外に牽引する分野は見当たらない。同社でもスマホの勝ち馬であるサムスンやアップルに入り込むべく、指名活動を強化し、新たな材料提案に力を入れている。
一方、主戦場となっている中国では、安価を売りにする中国メーカーが台頭している。同社の銅合金製品の輸出比率は約40%で、その内の半数以上が中国向けである。国内の競合メーカーは採算度外視の価格を提示し、価格破壊も起きている。超円高、価格破壊が続く状況下では、採算はきわめて厳しい。
同社は中国の華南、蘇州にコイルセンターを設置。日系メーカーを対象に、きめ細かいサービスを提供しているが、現地では「ローカル価格」を要求され、コストの面で切り替えられるケースも出ている。
こうした状況を打破するためには、ローカルメーカーには真似のできない高強度材や薄材を継続的に開発し、付加価値勝負を挑む一方で、地元のローカルメーカーとのアライアンスなど、「ローカルを使いこなす」戦略も視野に入れざるをえない。
ビジネスの概要をお聞きした後、相模工場を見学させていただいた。同社では溶解・鋳造、焼鈍、面削、圧延などの上流工程は上越工場が担当している。相模工場はめっき、スリット、梱包・出荷という下流工程を担っている。
合金は読んで字の如く、複数の金属を混ぜ合わせてつくられる。当然、その配合、成分調整がきわめて重要な鍵を握っている。製品の歩留まりを高め、設備の稼働率を高めることがコスト競争力につながる。
同社の設備はけっして最新鋭とは言えない。中国の新興メーカーなどは、おそらく最新鋭の設備で製造を行っている。そうした競争環境の中で勝ち残るためには、より一層現場力に磨きをかけなければならない。
設備産業、装置産業だからこそ、現場力は不可欠である。設備のメンテナンス、高稼働率の確保、歩留まり向上、そして安全。同社のような中堅規模の材料メーカーが勝ち残るためには、競合メーカーを凌駕する「体質」の高い現場を創り上げることが必須条件である。
その後、同社のもうひとつの事業の柱である磁気デバイスの現場も見学させていただいた。磁気デバイスは一般には馴染みがないが、私たちに身近な商品に数多く使われている。たとえば、漏電ブレーカーの漏電センサー、エアコンや冷蔵庫のインバータの過電流検出機器などがその代表的な用途である。
とても地味な製品であるが、実は成長分野でもある。太陽光発電パワコン用、スマートメーター用、電気自動車の充電器やケーブル用など、これから成長が見込める分野での用途開発の可能性が広がっている。
しかも、国内の主たる競合メーカーはもう1社あるだけとのこと。いかに新規分野をスピーディに開拓し、受注拡大できるかが鍵を握っている。
製造は上流工程である巻線は、主に中国で行っている。リードタイムの短縮、トータル製造コストの更なる圧縮も含めて、競争力をさらに高めれば、面白い事業に"化ける"予感がする。
材料からの一貫生産、さらには親会社である三菱電機はブレーカーやエアコンの大手メーカーでもあり、きわめて強力な「Teacher Customer」であることも、この製品の可能性を広げている。「材料屋」としての専門性と三菱電機の技術開発力を融合させることは、他社にはない大きな武器だ。
分野は異なるが、キャノンのグループ会社であるキャノン電子は、キャノングループとしての強みを活かしつつ、独自経営で高い収益性を確保し、大きな存在感を示している。三菱電機メテックスが「三菱電機グループのキャノン電子」となりうるのか、これからの舵取りに期待したい。