第46話 緑叶制葯集団(中国)

 中国の山東省・煙台に本社のある製薬企業・緑叶制葯集団(Luye Pharma Group)を訪ねてきた。(このレポートではLuyeと記載する)
 煙台は青島に次ぐ山東省第2の都市。山東半島の東部に位置する沿海都市で、都市部の人口は約100万人。周辺部も含めると約650万人。2010年のGDP成長率は14.1%と、青島の12.9%を凌ぐ。
 緑が多く、海岸沿いもきれいに整備されていて、なにより北京や上海と比べると人も車も少なく、ゆったりしている。高層ビルの建築ラッシュは続いており、これからまだまだ発展・成長が期待できる。これまで私が訪ねてきた数多くの中国の都市の中で、間違いなくナンバー1の風光明媚なところである。

46 Luye8.JPG

高層ビルの建設ラッシュ

 

 Luyeは1994年にこの煙台で産声を上げた。現在のCEOであるLiu Dian Bo氏をはじめとする3人で創業。2010年度の売上高は13.4億元。日本円に換算すると、約170億円である。
 昔ながらの漢方薬会社も含めると、中国には約5千社もの製薬メーカーがあるという。山東省だけでも約300社存在する。Luyeの売上規模は全国で23位であり、規模的には中堅製薬企業と言える。
 しかし、近年の業績の伸びは顕著である。2006年度の売上高は約3.1億元にすぎず、その後の4年間で4倍の規模に達している。2010年度の純利益額は1.4億元。日本円換算で17億円を稼ぎ出している。
 Luyeの最大の特徴は、新薬の開発に力を入れていることである。癌などの腫瘍(oncology)や心臓血管(cardio vascular)の分野に強みを持ち、世界で唯一と言われる癌放射線治療増感剤や高脂肪血症に有効な脂質調整薬などが主要製品である。2010年度の分野別売上高を見ると、腫瘍関連が47%、心臓血管関連が20%、その他が33%となっている。

46 Luye3.JPG

展示された主力製品

 

 中国製薬メーカーの大半が、いわゆるジェネリックや「ゾロ新」と呼ばれる後発医薬品を手掛ける中で、「ピカ新」(新規の化学構造、治療効果を持つ新薬)に挑む会社はけっして多くはない。Luyeは売上高の10%を新薬開発につぎ込み、全社員900名の内、研究者が300名を占める。
 2002年には地元の煙台大学薬学部と提携し、共同開発を進めている。日本の協和発酵キリンとも共同開発を行うなど、外部との連携強化も積極的に進めている。
 創業後約18年が経過しているが、売上高や純利益がここ数年急激に伸びているのは、長年の研究成果がここにきて実を結び始めているということを意味している。2005年からマレーシア、インドネシア、ベトナム、韓国などアジア圏への輸出を開始し、海外市場の開拓も手掛けている。
 本社で会社の概要について説明を受けた後、本社に隣接する工場や分析室などを視察した。約20年前の創業時に建てたもので、設備も古く、目新しいものはなかった。

46 Luye5.JPG

本社

 

 しかし、その後向かった郊外の新工場を見て、驚いた。竣工したばかりの真新しい工場は洗練されたデザインで、最新鋭の設備が導入された一級のものだった。機械化、自動化を推し進め、生産性の向上や品質の確保に取り組んでいる。

 

46 Luye6.JPG

新工場外観

 

 Luyeは2004年にシンガポールに上場し、莫大な資金を調達した。その資金はまずは新薬開発に投入され、認可が下りた今、最新鋭の工場で生産し、世界に輸出しようとしている。中国企業の勢いをまざまざと見せつけられた。
 私がLuyeに着目するのは、それだけではない。CEOのLiu氏は人をとても大切にする経営を行っている。採用する社員はすべて正社員。臨時工などの非正規社員はいない。また、教育や福利厚生を充実させ、適材適所を行うためのローテーションもルール化させている。
 Luyeのホームページには次のように記されている。「Employees are our most precious and valuable assets. With the same values and common dreams, we are gathered here to make I happen.」
 新年会や社員旅行などの全社イベント、社内報の発刊など組織をひとつにするための様々な取り組みを行っている。私が訪問した初日の夜の会食では、社員たちによる歌や踊りが披露された。お世辞にも上手とは言えないパフォーマンスだが、会社がひとつになるためには有効だ。

46 Luye4.JPG見学スペースに展示された社内イベントの写真

 

 中国では地方の巨大工場でデモや暴動が起きていると報道されている。過酷な労働を強いられ、現場労働者の不満が鬱積している。その一方で、Luyeのような会社も生まれている。
 Liu氏の経歴を知れば、それもうなずける。彼は起業する前には、Yantai Teacher's College(煙台教育大学)で教員を務めていた。彼は人を育て、活かすプロでもあるのだ。
 今回、私がLuyeを訪問するきっかけとなったのは、2012年3月にLiu氏が日本を訪問したことである。私が客員教授を務める長江商学院のCEOプログラムの一環で日本を訪問し、早稲田で私の講義を受けたLiu氏から、「是非、煙台に来て講義を行ってほしい」という要請を受け、今回の訪問が実現した。
 Liu氏の「外から学ぶ」姿勢は、この会社を「学習する組織」へと変えつつある。3月に行った私の講義で、現場力や「改善」の重要性を認識したLiu氏は、帰国直後に「持続改善部」という新たな組織を立ち上げ、全社的な改善活動に取り組み始めた。
 わずか数ヶ月の活動で、100件以上の改善提案が現場から出され、実施されている。実際、新設された工場では、機械や設備のレイアウト設計において現場の意見が大きく反映されたと言う。新工場で私を案内してくれた若い女性マネージャーがとてもイキイキしていたのが印象的だった。「ここは私の工場です」という誇りが伝わってくるようだった。

46 Luye 7.JPG

新工場内部

 

 中国ならではのトップダウン式の経営において、ボトムアップのメカニズムを埋め込むのは容易なことではない。しかし、Luyeはそれに果敢に挑戦している。トップダウンというダイナミックな動きと、ボトムアップという地道で持続的な活動が融合した時、中国からとてつもない競争力を持つ企業が生まれてくるかもしれない。Luyeはまさにその可能性を示している。

訪問先

緑叶制葯集団

このページの先頭へ