第56話 株式会社日立製作所 情報・通信システム社 神奈川事業所・小田原事業所

 「現場千本ノック」の記念すべき第1話は日立製作所の発祥の地・日立事業所だった。それから約3年、「社会イノベーション事業」に注力する日立のひとつの柱であるITプラットフォーム事業の中核拠点2ヶ所を訪ねてきた。
  日立はコンピュータ事業50周年を迎えた2012年に、IT関連の製品・サービスをひとつの本部に統合した。サーバを担当する神奈川事業所、ストレージを 担当する小田原事業所、そしてソフトウェアを担当する横浜事業所が相互連携しながら、日立ならではの一貫型ソリューションを生み出すことを狙った組織再編 である。
 まず訪問したのは、神奈川県秦野市にある神奈川事業所。PCサーバ、UNIXサーバから一体型の統合サービスプラットフォーム(BladeSymphony)まで多様なサーバを提供している。

日立 (2).jpg神奈川事業所



 1962年、戸塚で神奈川工場としてスタートしたが、1968年に現在の秦野に移転。東京ドームの約4倍の19万平米の敷地に、関連会社を含め約3000名が勤務する。
  そのこだわりは「国産」、「日立品質」にある。日本の基幹産業である鉄道、電力、金融などを支える「止めてはいけないシステム」を担ってきた。JRの「み どりの窓口」のシステム開発は日立が担当。2004年4月にNHK「プロジェクトX」で「100万座席への苦闘」と題して放映され、大きな話題となった。 日本の巨大社会インフラの多くは、日立などの国産コンピュータが支えてきた。
 そのベースにあるのが、「日立品質」と呼ばれる圧倒的な高品質、高信頼性だ。システム障害発生頻度の低さは業界トップだ。富士通、NECなど他の日本勢と比べても低く、IBM、HPなど海外勢とは桁違いの数字である。
 この「日立品質」は「ここまでやるのか・・・」と思わせるほどの厳しい品質検査によって担保されている。製品の開発段階で品証が参画し、すべてのプロセスにおいて品質の徹底したつくり込みを行い、厳しい部品認定試験、装置認定試験を実施している。
 部品レベルで日立独自の検査を行い、認定された部品しか使用しない。部品メーカーの中には、「うちの製品を信用していないのかと怒り出すところもある」というほどの徹底ぶりである。
 さらに、サーバの組み立て工程は「試験と検査の塊」である。組み立て自体の工数は短いが、検査に要する時間は半端ではない。社会インフラを担うサーバに品質の妥協は許されない。
  その一方で、これだけ品質にこだわれば、コスト、リードタイムという面での負の影響は否めない。海外勢はある程度の初期不良を織り込んだ価格を提示してく る。出荷前に「完璧なものに仕上げる」ことよりも、リーズナブルな価格で提供し、何かあった時に迅速に対応するという「割り切った」ビジネスモデルを指向 している。
 さらに、海外勢は部品共通化、スケールメリットの追求でコスト競争力を高めている。トータルコストに占める加工費は5?6%にすぎず、調達力がコスト上の優位性を決めるといっても過言ではない。
  日立のサーバは国内では高い評価を受けているものの、輸出比率は10%以下であり、海外勢と比べると規模の面で劣る。サーバのコモディティ化が進む中で、 これだけの品質へのこだわりをいかに価格に反映させることができるかという点も難題だ。「日立品質」は単なる高品質を超えた「プレミアム品質」と呼べるほ どのものだが、それに対して顧客が対価を支払うことを厭わないストーリー性のあるブランディングやマーケティングが不可欠である。
 秦野を後にし、小田原事業所に向かった。ここは日立が誇るストレージの牙城である。1966年にコンピュータ周辺機器工場として誕生。約1000人の開発部隊と約400人の生産部隊を抱えている。

日立 (3).jpg小田原事業所


 日立のストレージ事業は躍進を続けている。2012年度の連結売上高は3700億円。2015年度には4500億円を目指している。外付型ディスクアレイでは16年連続で国内トップシェアであり、ストレージ分野の国内特許取得数も10年連続で1位の座にいる。
 しかし、日立のストレージの主戦場は海外だ。日本国内のみならず、北米、欧州、アジアなど全世界で「日立のストレージ」は高い評価を受けている。米国・オクラホマ、フランス・オルレアンにも生産拠点を持っている。世界展開するその心臓部がここ小田原事業所だ。
 超円高の時でも、確実に収益を上げていたと言う。それだけの高い国際競争力はいかに確立されたのか?
  その原点は、立ち上げ当初から「海外で勝負する」ことを掲げていたことにある。1989年に米国でエレクトロニック・データ・システムズ(EDS)と合弁 で日立データシステムズを立ち上げ、グローバルで通用する技術、ビジネスモデルを指向してきた。当初から世界を目指し、世界で揉まれることによって、日立 のストレージはグローバル競争力を高めてきたのだ。
 もうひとつのポイントは、コモディティ化が進むサーバと比べ、ストレージはソフトウェアのウェイトが高く、独自の付加価値を付けることが可能である点にある。
 顧客の要望に基づいて、独自ソフトを開発し、ストレージに様々な機能を埋め込む。ストレージは「ソフトの塊」だ。実際、小田原事業所のソフト開発者の数はハードの3?4倍いる。独自の付加価値を付けにくいサーバに対して、ストレージはソフトで勝負することができる。
 その一方で、ストレージにおいても「日立品質」は変わらない。徹底した品質管理に加えて、システム検証センターではソフトの評価、接続性の検証に力を入れている。
  生産部門でも現場力による改善の取り組みが熱心に行われている。2人で行っている作業をロボットの活用によって1人作業に改善したり、AGV(自動搬送 車)がエレベータを使って自動で階を移動したり、実に様々な創意工夫が施され、地道なコストダウンの追及が効果を上げている。
 「世界で勝負する」という高い志を掲げ、開発、生産、販売がそれぞれの持ち場で現場力を磨き、グローバル競争力を高める。日立のストレージの成功は、日本のIT産業が世界でいかに戦うべきかのお手本を示している。
 日本の社会インフラを圧倒的な品質と信頼性で支えてきたサーバ。世界を舞台に独自の付加価値を磨いてきたストレージ。異なる生い立ちと特徴を持つ製品群を統合させ、いかに飛躍させることができるか?

日立 (1).jpg日立のITプラットフォーム事業ビジョン


 「統合」とは単なる「足し算」ではなく、「掛け算」のことである。「単品」経営を脱し、「ビッグ・コンセプト」で引っ張 る力強さが不可欠だ。日立の総合力を活かすためには、クライアントのニーズを先取りし、日立ならではの「際立ち」「尖り」をデザインする「プロデュース」 能力にかかっている。
 





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