第53話 株式会社島精機製作所

 和歌山市にある島精機を訪ねてきた。その模様については2013年4月15日に掲載される東洋経済オンラインの連載記事『ニッポン中堅企業の秘めたる爆発力』で詳しく述べているので、このコラムでは取材当日の様子と印象について記したい。
 和歌山市郊外に島精機の本社ビル、工場はある。一部を除き、主要な子会社も同じエリアに近接しており、島精機グループとしての集積を形成している。堂々とした本社ビルはまるで「城」のようだ。


53 島精機1.jpg本社ビル

 日本のよいモノづくり企業は、「城」「城下町」という考え方を大切にしてきた。「城」を中心に本社工場、グループ企業、協力企業が集積し、連携し合いながら独自の技術、競争力を磨き上げる。この緊密性、凝集性が日本のモノづくりを支えてきた。
 島正博社長の案内で工場内を見学させていただいた。まず驚いたのは、数十台ものマシニングセンターが稼働している部品工場。部材の超精密加工を内製化し、ほとんどすべての部品は自分たちでつくっている。「世界初」の機械を次々に開発し、市場投入するという「離れ技」の裏では、「どこにもつくれない部品を自分たちの手でできるだけ安くつくる」というこだわりが貫かれている。
 「めんどくさいことは自社でやる」という島社長の言葉がとても印象的だった。めんどくさいことを安易に外に丸投げし、モノづくり力を劣化させてしまった数多くの日本企業にとっては耳の痛い言葉だ。
 工場内にはポスターや標語の類が一切ない。どの工場でも見られる「整理整頓」や「安全第一」といったスローガンが掲示されていないのだ。島精機では創業以来、こうしたポスターや標語を貼っていない。
 「"貼ってあるからちゃんとやる"というのはおかしい。貼っていなくてもきちんとできるようにするのが本来の姿」と島社長は教えてくれた。こうしたところにも島精機ならではの独自思想を垣間見ることができる。
 その後、自動手袋編み機、横編み機の生産工程を見学した。ここにも島精機ならではの工夫がいたるところに見られる。横編み機の生産リードタイムはわずか4日。一品一様のカスタマイズされた製品を、部材の在庫を持たずにこれだけの短納期で生産できるのは驚異的だ。
 そして、今、島精機がこれからの成長の柱にしようとしている「ホールガーメント」の生産現場に移動した。パーツを縫い合わせることなく、一着丸ごと立体的に編み上げるという革命的な製品で、世界的にも大きな注目を集めている。


53 島精機2.jpgホールガーメント組立ライン


 生産性やコストの問題をこの1年で一気に解決し、市場性が大きく広がった。現場の「やる気」が様々な問題を解決に導いた。現場でお話を伺った製造技術担当の島崎さんは「情熱があれば、知恵が出てくる」と教えてくれた。島社長のDNAは現場に間違いなく刷り込まれている。
 その後、デザインセンターでコンピューター技術を活かした島精機独自のデザインシステムを見せていただいた。バーチャルサンプルによって画面上で風合いや表情を比較検討することができるという画期的な仕組みだ。これによって、商品企画からサンプルづくり、販促までの工程が効率化される。メカトロニクスとコンピューター技術を融合させた島精機ならではの新たな優位性である。
 見学を終えると、壁に一枚の細かい模様が施された生地が飾られていた。よく見ると、その模様はタコ。しかも、それぞれのタコの脚は他のタコの脚と絡んでいる。

53 島精機3.jpg53 島精機4.jpg
「タコブツ」模様の生地


 島社長は「タコブツはダメ!」と力説する。よく言われる「タコつぼ」と同じ考え方だ。タコのように自分の殻に閉じこもり、他との連携がうまくいかないことを「タコブツ」と表現する。
 この模様には「8本の脚の何本かは他の人たちとつながれ!」というメッセージが込められている。つながることでもっともっと大きな力が発揮できる。トータルファッションシステムという新たな価値創造に挑む島精機にとって、この模様はとても大切な意味を持っている。
 工場見学をする前に、本社ビル最上階の自前のイタリアンレストランでとても美味しい昼食をご馳走になった。和歌山市が一望できるこのレストランでは、海外からのゲストに和歌山の海の幸、山の幸を振舞う。
 このレストラン以外にも、島精機はトレーニング用の宿泊施設付きの研修センターを自前で運営している。海外を中心に毎月約100名ほどが機械の運転、保守などの研修を受ける。
 以前は機械を海外に販売すると、日本から指導に出向いていた。「どうせお金をかけるなら、島精機のことをもっとよく知ってもらい、ファンになってもらおう」という考え方に転換し、今では海外から和歌山に学びにきてもらい、「ファンづくり」に結びつけている。島精機の理念のひとつでもある「ギブ・アンド・ギブン」(与えれば与えられる)がここにも活きている。
 島社長は「反対向いて走れば1番になる」とよく語る。中堅企業である島精機が大企業の後追いをしても競争に打ち勝つのは難しい。ならば、敢えて反対の方向に走れば、先頭に立つことができるという発想だ。
 部品の内製化、工場内のスローガン無し、独自の一品一様生産、タコブツ打破、海外からの研修生の受け入れなどの取り組みは、一般的な大企業とは一線を画す島精機独自の思想が支えとなっている。
 そして、その象徴が本社ビルエントランスに飾られているロダンの「考える人」とボッティーロの「ラージハンド」だ。「考える頭」と「行動するハンド」を持ち、実践する力強い社員がいる限り、島精機の発展は間違いなく続く。

53 島精機5.jpg53 島精機6.jpg
       「考える人」                     「ラージハンド





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