第54話 TTAS CO., LTD(ミャンマー)

 「アジア最後の経済未開拓市場」として大きな注目を集めるミャンマーで、トヨタ認定の唯一の正規サービスショップを営むTTAS社を訪ねてきた。この会社は以前はトヨタ車を販売するディーラーだったが、軍事政権時代に海外からの車の輸入・販売が困難となり、現在は保守・サービスをメインに手掛けている。

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TTAS社外観

 TOYOTAの大きな看板を掲げるショップには約20台の車が修理・点検中だった。ショップ内はトヨタの指導によって整理整頓が行き届き、整然と作業が行われていた。
 店内には作業が終わるのを待つ顧客が10名ほど。ソファに腰掛け、TVを楽しんでいる。

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整備の現場


 ヤンゴンは車の街である。他の新興国の都会では必ず見られるバイクやオートリキシャの喧騒を見ることはない。テロを恐れた軍事政権が小回りの利くバイクやオートリキシャの乗り入れを禁止したからである。
 代わりに起きているのが、車の大渋滞である。新政権発足後、中古車の輸入が緩和され、一気に車の流入が増えた。かつては年に2000枚ほどしか発給されなかった輸入許可書が月に1万枚となり、輸入車がなだれ込んできた。
 世界最貧国のひとつ・ミャンマーでは、庶民にとって車は高嶺の花。平均月収100ドル(1万円)ほどの庶民にとって、車は夢のまた夢にすぎない。
 加えて、輸入許可書の取得にはべらぼうな金額が必要だった。軍事政権時代はなんと1台12万ドル。輸入許可を取得するだけで1千万円が必要という異常な状況だった。世界で一番中古車の価格が高いと言われていた。
 民主化によって、今ではその輸入許可書が無料化され、発給も緩和されたため、一気に中古車が押し寄せてきたのだ。ヤンゴン市内は「これが世界の最貧国か?」と思うほど車が溢れていて、違和感を覚える。
 日本中古車輸出業協同組合によると、かつては月間数百台だったミャンマー向けの輸出が昨年は7千台に急増。仕向け地別で見ると、ロシア、アラブ首長国連邦(UAE)などに次ぎ4位に躍り出た。
 街中には新旧入り混じった多様な車が走っている。「よく走ってるな・・・」と感心するようなボロボロのバスやトラックに混じって、新品同様のレクサスなど高級車もよく見かける。日本語が表示されている車もよく走っている。

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日本語表示の残る中古車

 走っている車の大半は日本車だ。2012年6月末の自動車登録台数233万台のうち、日本車は9割を超える。中でも、トヨタ車の人気は圧倒的だ。街で見かける10台のうち8?9台はトヨタだ。
 当然、中古車の次に期待されているのは、新車の輸入である。政府や外交官など向けに2万台の新車輸入が許可されるという計画が既に市場では流れている。
 実際、TTASの店先にはピカピカのレクサスESの新車が5台誇らしげに並んでいた。これは政府が発注した50台の一部で、TTASが輸入業務を代行した。

54 TTAS (6).jpgレクサスES


 政府要人や富裕層にとって、レクサスは「成功のシンボル」。一家に必ず1台はあるという。日本の富裕層に「メルセデスベンツ」が入り込んだのと同じ構図である。
 しかも、「Made in Japan」であることに大きな価値があるという。同じトヨタ車でもタイ製は人気が低く、日本から直輸入することにこだわる。「Made in Japan」神話はミャンマーではいまだに健在だ。
 しかし、海外の競合メーカーが手をこまねいているわけではない。KIAなどの韓国勢、中国勢も価格を武器に力を入れ始めている。ブランドにはあまりこだわらない商用車(トラック)は既に中国製が市場を押さえている。
 TTASは1958年の創業。日本人を父に持つ現社長のAye Zaw氏のファミリーが、トヨタ車の販売権を得て、事業を開始。その後、豊田通商が資本参加したが、軍事政権下で販売活動は事実上できなくなり、修理などのアフターサービスでなんとかしのいできた。

54 TTAS (9).jpgZAW社長らと

 従業員数は約120名。修理などのメンテナンスを手掛けている顧客ベースは約2万人。この顧客資産がTTASの最大の財産だ。
 トヨタ認定の正規サービスショップとして、エンジニアを何人も日本に派遣。トヨタの訓練センターで技術を磨いた。修理用の部品も約6割は日本製のトヨタ純正。残りはトヨタのタイ工場から輸入していると言う。
 人口6000万人を超えるミャンマーは、潜在市場としての魅力度は高い。日本との親和性も高く、日本企業にとっては中長期的にはきわめて大切な市場だ。
 軍事政権時代は50社程度だった日本企業が、ここ1年で80社に増えた。在留邦人数も1年前の500人から800人に増えていると言う。
 しかし、ミャンマーを狙っているのは日本だけではない。軍事政権時代から入り込んでいる中国に加え、欧米、韓国勢が一気に入り込んできている。
 かつては1000ドル(10万円)程度だった1ベッドルームの外国人用アパートが今では3000ドルに高騰。外国人ビジネスマン向けのホテルも1年前は50ドル?70ドル程度だったのが、現在は200ドルに跳ね上がっている。供給に限界があるので、価格は天井知らずだ。
 中でも手強いのは韓国勢だ。TVではどのチャネルでも韓流ドラマが流れているという。ドラマを通じて韓国のライフスタイルを刷り込み、韓国製の携帯電話、テレビ、化粧品、ファッション、そして車を売り込もうとする戦略だ。
 ミャンマーで圧倒的なブランド力を誇るTOYOTA。市場の発展と共に、それを維持・拡大するためには、ローカル・パートナーとの連携をより密にし、スピード感ある意志決定と行動ができるかどうかが試されている。









訪問先

TTAS. Co., Ltd.

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