「未来商店街」を訪ねる前に、市街地を車で回った。陸前高田の市街地は津波ですべてが破壊され、街そのものが消え去ってしまった。被災から2年以上経った今でも、新しい建物ひとつ建っておらず、一面、野っ原のままだ。瓦礫の山や無残な姿を曝け出すアパートや学校の校舎も残っている。


陸前高田市街地と瓦礫の山


無残な姿のままのアパートや校舎
しかし、少しずつだが復興に向けての動きも見える。海沿いの地域では、大規模な盛り土が築かれようとしている。今でも市街地を走るのはトラックばかりだが、以前は瓦礫の運搬がその役目だったが、今では土を運ぶトラックも多い。復興の土台を築こうとする動きは確実に進んでいる。
街のはずれにある運動場から歓声が聞こえた。小高い丘の麓にある運動場では、青い運動着を身にまとった中学生たちが体育の授業で汗を流していた。大きな傷跡を引きずったままだが、人々は前に進もうとする日常の営みを取り戻そうとしている。
そんな中、「未来商店街」はオープンした。2011年9月に「なつかしい未来創造株式会社」というコミュニティ・カンパニーを立ち上げてから、1年半以上の時間を要しての船出だった。当初の計画では、昨年にはオープンしているはずだったが、電気工事や水道工事などインフラ整備の遅れなど難問が続出。難産の末、ようやくオープンにこぎつけた。
その根底には、このプランを推し進めてきた橋詰真司さん(未来商店街代表)や奥さんである智早子さんたちのこの商店街に懸ける思いがある。みんなが自然と集まり、明るい声や笑い声が聞こえ、子供たちが元気に走り回っているような「"にぎわい地"をつくりたい!」。単に買い物の不便さを解消するだけでなく、みんなが気軽に集まる"場"としての商店街。街の再生には、商店街は不可欠な要素である。
手作り感満載の看板がかかったゲートをくぐると、「未来商店街」のエリアである。店舗数は11。コンテナを利用したお店が5軒。中小企業基盤整備機構の支援を受けて建てられた2階建てプレハブを活用した店舗が6軒。木造平屋建ての多目的ホールも完成した。
手作りの看板


多目的ホール(左)とコンテナ店舗(右) プレハブ店舗
土日にはオープンスペースで200年続く伝統の「けせん朝市」が開かれる。地元のおばあちゃんたちが野菜や果物を販売し、賑わう。まさに、人と人とが触れ合う"場"が形成されつつある。
店舗の数はけっして多くないが、そのひとつ一つは個性的で、魅力に溢れている。特に、「食」と「ファッション」の魅力度は高い。
陸前高田で現在唯一の鮨屋である「鶴亀鮨」、お洒落なカフェレストラン「Bricks.808」、老舗の洋菓子店「パティスリーkankyu」、大衆食堂「てるてる」と「食」はバラエティに富んでいる。「ファッション」も雑貨屋「Laugh」、化粧品・服飾雑貨・婦人服を扱う「ファッションROPE・東京屋」、手芸店「スタイル」など充実している。この他に、整骨院やドコモショップなどが店舗を構えている。



陸前高田唯一の鮨屋「鶴亀鮨」 カフェレストラン「Bricks.808」 老舗の洋菓子店「パティスリーkankyu」



雑貨屋「Laugh」 化粧品・服飾「ファッションROPE・東京屋」 手芸店「スタイル」
被災地ではこれまでに数多くの仮設商店街がオープンし、メディアでも取り上げられた。しかし、その多くは現在は閑古鳥が鳴く状況だと言う。
オープンしたての時は、話題先行で、みんな注目するが、ひとたびその熱が冷めてしまうと、人はなかなか寄り付かない。大手ショッピングセンターなどができると、多様性、利便性、価格などの面で太刀打ちできない。
その点、「未来商店街」は小粒ながらも商業集積としての魅力度が高く、他にはない差別性がある。さらに、「未来商店街」の隣接地には、地元スーパー「MAIYA」の仮設店舗や銀行、書店などの仮設店舗も充実している。「未来商店街」を含む一帯が、人々が集まる空間になっている。
オープンまで時間はかかったが、それはある意味で「未来商店街」の魅力、価値を熟成させるためのものだったとも言える。
実際、「けせん朝市」が開かれる週末には、約100人ほどが訪れ、賑わうと言う。この勢いを持続させるためには、それぞれの店舗が魅力をさらに高める努力をすると同時に、様々なイベントの企画・実施など商店街としての魅力度を高める努力・工夫が不可欠である。
さらには、この商店街には運命とも呼ぶべき大きな難題が待ち構えている。「未来商店街」はあくまでも「仮設」商店街である。市街地の復興が進めば、新たな場所へと移転する。そのためのプランも徐々に固まりつつある。
復興する市街地への復帰は本望ではあるが、移転費用など経済的な難問に加えて、市街地は本当に復興するのか、市街地へ戻って本当に商店街は成り立つのかという本質的な不安も抱えている。
人が住む街があってこその商店街である。街の復興プランはあっても、その絵図通りに事が運ぶかどうかは蓋を開けてみなければ分からない。近郊に大手ショッピングセンターができる計画も進んでおり、人の購買行動そのものも大きく変わるだろう。
過去と未来をつなごうとする「未来商店街」が輝く存在となるためには、現在の難問を乗り越えていかなければならない。グランドオープンは「未来への扉」を開ける序章の始まりである。
未来商店街運営事務局黒田征太郎さん、ファッションROPE・東京屋小笠原修社長、未来商店街橋詰真司代表