第62話 株式会社総合車両製作所横浜事業所

 横浜市金沢区に本社を構える総合車両製作所の横浜事業所を訪問した。この会社の前身は東急車輌製造株式会社。

62 総合車両 (1).jpg横浜事業所全景

 2012年にJR東日本が買収し、JR東日本グループの傘下に入った。社名を総合車両製作所(Japan Transport Engineering Company)へと改め、通称J-TRECと呼ばれている。
 JR東日本は車両製造事業を (1)鉄道輸送、(2)駅ナカ、(3)SUICAに次ぐ「経営の第4の柱」として位置付けている。JR東日本自身も新津車両製作所で車両製造を行っており、ステンレス通勤車両を中心に17年間で約3600両を製造してきた実績を持っている。東急車輌の買収による相乗効果で、国内のみならず海外へと飛躍するチャンスを狙っている。
 東急車輌の歴史は古い。1946年に旧第一海軍航空技術支援廠に東急が横浜製作所を設立。それが母体となり、1953年に東急車輌製造が発足した。その歴史は60年を誇る。
 1948年から2013年6月末までの車両製造実績は、16788両に上る。その内、オールステンレス車両が7757両と半分近くを占める。
 新幹線車両の実績もあり、旧国鉄向けに700両、JR東日本向けに127両を納入している。

62 総合車両 (2).jpgJR東日本E2系


 また、円高の影響で現在はストップしているが、過去においては海外への輸出も展開した。アイルランド国鉄105両、シンガポール地下鉄90両、米国メトロノース54両など、計597両の実績を残している。

62 総合車両 (3).jpgアイルランド国鉄8520系


 しかし、近年の東急車輌の経営状況は不振続きだった。売上車両数は2007年度の475台をピークに減少傾向が続き、2011年度は約半分の228台にまで落ち込んだ。当然、収益も赤字が続いた。
 そうした中で、経営母体がJR東日本へ移った。これまでに蓄積した技術と経験を活かして、再生させることができるかどうかが問われている。
 J-TRECは10年後の中長期ビジョンを掲げた。現状の売上高約500億円(J-TREC350億円+新津150億円)を、10年後には倍増の1000億円にするという野心的な目標だ。国内600億円、海外400億円を目指している。
 そして、その達成のために4つの重点戦略を掲げた。ひとつ目は新幹線とステンレス車両を2大柱とする商品開発力。新幹線はE7系の設計、製作を通じて、リーディングメーカーとしての基礎固めに挑む。そして、次世代ステンレス車両"sustina"を開発し、国内のみならず、諸外国の規格にも対応できるようにする。

62 総合車両 (4).jpgsustinaのイメージ図


 二つ目はマーケティング力。待ちの営業から脱皮し、提案型の攻めの営業に転ずると共に、海外市場の開拓が必須である。
 世界の鉄道市場は2020年には22兆円になると予測されている。アジア・太洋州29%、西欧28%、北米17%、CIS12%、東欧6%、中東・アフリカ5%と世界に市場は広がっている。
 三つ目はものづくり力。設計と構造・工法の抜本的改革によって、3年間で製造工数20%削減を目指している。
 そして、四つ目は組織力。現場力を高める人材育成と風土改革を狙っている。J-TRECが再浮上するためには、これら4つの課題は何があっても必達しなければならない。
 会社の概要について説明を受けた後、広大な横浜事業所を見学させていただいた。敷地面積は285000m&#178。東京ドーム約6個分の広さだ。社員数は約800名。年産能力は720両だ。
 工場は旧海軍工廠だった建屋をそのまま使っている。戦時には、ここで魚雷や爆弾を作っていたという。
 広い敷地内には、約10の大きな建屋がある。その建屋を移動しながら、車両を組み上げていく。
 車両の製造工程自体はシンプルだ。パネルを結合し、六面体を組み立て、シール・塗装を行う。その後、窓・ドアを取り付け、配管・配線といったギ装を行い、内装を取り付ける。最後に台車を取り付け、試運転を行う。
 工程だけを見れば、プラモデルの電車を組み立てるのと同じように聞こえるが、本物の電車はプラモデルのようなわけにはいかない。部品ひとつ一つが巨大であり、その加工・運搬・組み付けは容易ではない。「巨大な鉄工所」と「巨大な組み立て工場」が合体したというイメージだ。
 JR東日本の傘下に入り、新幹線に再度チャレンジするための新しい設備も導入されている。しかし、経営不振が長年に亘って続いたため、現場への投資は滞っていた。
 一部にはロボットなども導入されているが、まだまだ労働集約的な作業が大半だ。生産性、効率性を高め、コスト競争力を確保するためには、装置産業への脱皮も必要だ。
 日本は鉄道技術の先進国だが、鉄道車両製造においては他国の後塵を拝している。2010年度の鉄道車両売上を見ると、1位中国北車、2位中国南社と中国勢が台頭している。そしてその後に、3位シーメンス、4位ボンバルディア、5位アルストムと先進国メーカーが続く。
 上位5社の売上高は6000~8000億円と巨大だが、日本勢は車両・電気品すべてのメーカーを足し合わせても4000億円程度だ。これではまともな勝負にはならない。
 鉄道車両メーカーも国内にひしめいている。大手は川崎重工業(車両カンパニー)、日本車輌製造、日立製作所、近畿車輌、そして総合車両の5社だ。
 各社は海外展開を積極的に進めており、既に海外で現地生産も行っている。川重と日本車輌は米国で、日立は英国に工場を持ち、現地化を進めている。
 こうした先行メーカーに対抗するためには、まず足元の競争力を高めることが第一だ。マザーファクトリーとしての日本のものづくりに磨きをかけることが、海外で戦うための必須条件だ。
 JR東日本グループとしての総合力を活かすことはもちろん重要だが、モノづくり企業としての成否を握っているのは、設計、調達、製造、営業の現場力にかかっている。東急車輌時代に培った現場力は、競争力のベースとして活きるだろう。
 しかし、熾烈な競争に打ち勝ち、ダイナミックな戦略を実現するためには、同じところに留まっているのは許されない。これまでとは次元の異なる更なる高みの現場力にレベルアップできるかどうか。J-TRECの挑戦はこれからが本番だ。







訪問先

株式会社総合車両製作所横浜事業所

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