第61話 山形クリエイティブ株式会社

 山形県天童市にある山形クリエイティブ(YMCC)を訪ねてきた。ここは世界一の電子顕微鏡メーカーである日本電子(JEOL)のグループ会社。電子光学機器、分析機器、医用機器の生産を担っている。

61 山形クリエイティブ (0).jpgYMCC外観

 日本電子についてはこれまでにこの「現場千本ノック」で2回紹介してきた(第9話第44話)。「ここの電子顕微鏡がなければノーベル賞はとれない」と言われるほど高い技術力を持ちながら、業績的には低迷が続いていた。
 そうした状況の中で、栗原権右衛門社長のリーダーシップの下、構造改革を断行。2012年度は、売上高796億円、営業利益30億円とV字回復を成し遂げた。
 輸出比率の高い日本電子にとって円安という追い風が吹き、さらに国内での科学振興費の回復で受注は好調。2013年度は売上高904億円、営業利益40億円を計画している。
 その日本電子グループの中で、比較的量のまとまる量産機種の組み立て、最終検査を担っているのがYMCCだ。従業員数は約80名、その他に構内請負組織であるPS会の従業員約90名が業務に従事している。
 2006年には皇太子殿下が行啓され、工場をご視察された。ご自身で電子顕微鏡の操作も行われ、世界一の技術に触れられた。

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皇太子殿下のご視察

 YMCCは2002年に山形市に設立された。当初の陣容は9名。地元の生産委託先に出向き、技術指導、作業指導を行うことが主な仕事であった。
 2004年に天童市に新工場を設立。本格的な生産を開始した。その際に導入したのが、「生産センター方式」という仕組みだ。生産委託を行っている協力会社に新工場に集結してもらい、統一した技術指導の下、効率的で、高品質が担保できるモノづくりを推進するのが狙いだ。
 日本電子の製品は真空状態を維持したまま作業を行うなど、生産の難易度が高く、技術指導が不可欠だ。それまではそれぞれの協力会社に日本電子の社員が出向き、個別に実地指導を行っていた。
 しかし、それでは手間暇がかかるだけでなく、協力会社間の意識や技能のバラツキも発生する。新工場設立と同時に、協力会社に集結してもらい、「バーチャル・ワン・ファクトリー」として機能させようというのが、「生産センター方式」の意図である。
 協力会社は5社。PS会のPSは「パートナーシップ」の略である。
 この方式は品質面では大きな成果を上げている。出荷台数は増えているにも関わらず、納入トラブルや顧客クレームは大きく減少している。2007年頃は毎年数十件あったトラブルやクレームは、近年は数件に減っている。
 こうした生産方式は他の業界にも見られる。第40話で紹介した積水ハウス東北工場もその一例である。外部の協力会社を活用しながら、ローコスト&高品質を実現しようというのはひとつの選択肢ではある。
 しかし、問題点もないわけではない。契約形態は「請負」であり、日々のオペレーションの中で5社とどのように意思疎通、意思決定を行うのかはデリケートな要素も含んでいる。5社間のレベル合わせ、協業、一体感の醸成などもけっして簡単ではない。
 労務費という要素コストを削減するという意味ではそれなりの効果はあっても、トータルコストという視点で見れば、また別のソリューションもありえるかもしれない。特に、付加価値の高い製品を生産・販売している日本電子にとって最適な生産方式とは何かを改めて議論する必要はあるかもしれない。
 YMCCで生産している製品は、次の3つに大別できる。
 ・透過電子顕微鏡(EM)
 ・走査電子顕微鏡(SM)
 ・生化学自動分析装置(BM)
 それぞれの製品ごとに3~4種類の機種が存在し、それらすべて併せても年間総生産台数は約1000台前後である。YMCCは日本電子の「量産工場」と説明したが、けっしてマスプロダクションの工場ではない。一品一品丁寧に組み付けを行い、慎重に検査を行う「手づくり工場」である。
 単価も1千万円から1億円と、普通の企業であれば「高額製品」である。しかし、1台20億円の電子顕微鏡を受注する日本電子にとって、「1千万円はローエンド」である。
 説明を受けた後、生産現場を見させていただいた。出荷待ちの血液分析装置がズラッと並んでいる。日本電子は欧州の大手医療機器メーカーに年間数百台もの装置をOEM供給している。この装置が日本製であり、しかも日本電子が供給していることを私は知らなかった。

61 山形クリエイティブ (3).jpg血液分析装置

 電子顕微鏡の生産現場には透過電子顕微鏡JEM-2100が並んでいた。その出荷先を見ると、中国、ドイツ、ポーランド・・・。その多くが海外へ出荷される。
 電子顕微鏡の生産は、最終調整が鍵だ。単純に組み立てて、検査をしてハイおしまいというわけにはいかない。複雑で、繊細な部品を組み付け、規定されている性能を担保するという「擦り合わせ」の技が求められる。世界最高というハイエンドに限らず、こうしたミドルエンドの製品でも、日本の現場力が大きな競争力となる。

61 山形クリエイティブ (4).jpg電子顕微鏡の最終調整


 日本電子は2013年度より新中期経営計画「Dynamic Vision」をスタートさせた。これまでの構造改革によって培った強固な経営基盤を活かし、さらなる成長を目指すというものだ。
 3ヶ年計画のゴールである2015年度には、売上高970億円、営業利益65億円の目標を掲げている。日本電子の傑出した技術力があれば、十分に実現可能だろう。
 そして、その実現のために「3つのUP」を打ち出した。それらは「製品開発力UP」「ものづくり力UP」「ブランド力UP」である。
 YMCCは「ものづくり力UP」を担う中核拠点だ。未来に向けた新たな生産方式の確立、新たな視点でのコスト削減手法の確立など、これまでの"常識"を打破する取り組みが求められる。
 新中計で栗原社長が強調しているのが、「YOKOGUSHI」(横串し)である。部門同士、人間同士、会社同士の横の連係を強化し、一体となった取り組みを目指している。
 「YOKOGUSHI」とは「つなぐ化」の実践である。いくらひとつ一つが素晴らしくても、「点」のままでは大きな力にはならない。「点」をつなぎ、「面」の力に変えていくためには、「YOKOGUSHI」が不可欠だ。
 高付加価値製品を開発し続け、日本での生産にこだわる。日本のモノづくり企業のひとつのお手本として、日本電子への期待は益々高まっている。




訪問先

山形クリエイティブ株式会社

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