第64話 カネカ大阪工場

 「ガクでガイをナエル会社」のブランディングで知られるカネカの大阪工場を訪ねてきた。場所は大阪府摂津市。淀川沿いに立地してる。
 近隣にはダイキン工業や塩野義製薬の工場もあり、もともとは工場地帯だった。しかし、今ではマンションなどの住宅街が広がっている。都市型立地の工場だ。
 2004年にカネカへと社名変更をしたが、その旧社名は鐘淵化学工業。前身企業である鐘淵紡績から非繊維事業を分離させ、1949年に設立された。創業64年目を迎えている。
 連結売上高は4765億円(2013年3月期)、営業利益は158億円を上げている。従業員数は連結ベースで8600名。
 カネカは化成品、機能性樹脂、発泡樹脂、食品、ライフサイエンス、エレクトロニクス、合成繊維など実に多様な事業を展開している。化学が色々な産業と密接に絡んでいることの証でもあるが、その裾野の広さを活かした「多軸経営」を推進している。
 売上高構成比を見ても、突出した事業がない。化成品19.9%、機能性樹脂14.9%、発泡樹脂12.2%、食品27.9%、ライフサイエンス9.9%、エレクトロニクス8.7%とバランスのとれた構成となっている。各分野でスペシャリティの高い製品を提供するのが、カネカの戦略の柱だ。
 事業のポートフォリオは進化しているが、「多軸」であることは創業当初も同様だった。苛性ソーダ、搾油、石鹸、食用油、酵母、製紙、エナメル、化粧品、デンプンなどきわめて多岐に渡る製品をつくっていた。
 「裾野の広さ」、「スペシャリティとしての深さ」がカネカの持ち味だが、それをさらに競争力として高めるために、長期経営ビジョンとして「KANEKA UNITED宣言」を打ち出している。それぞれの事業が独自の競争力を磨く一方で、「人と技術の創造的融合」を追求しようとしている。
 裾野の広さはどうしても「総花」になりがちだ。それを「総合」の力として結集させることは、多くの日本企業の共通課題だ。
 大阪工場の発足は1949年。まさにカネカの歴史そのものだ。その前身は人絹工場。鐘淵紡績がその工場を1941年に買収し、カネカの主力工場としてその役割を果たしてきた。日本で初めて塩化ビニル樹脂の量産化に成功したのもここだ。

64 カネカ1.jpg全景

 カネカには大阪以外に高砂、滋賀、鹿島の計4ヶ所に工場がある。大阪以外の工場が力をつける中で、大阪工場もその役割を変えてきた。現在は研究開発と一体となった開発製造一体型拠点の中心と位置付けられている。
 大阪工場が担当している製品は多様だ。屋根材などに使われるフィルム加工製品、住宅などの断熱材として使われる発泡スチレン板、自動車天井基材などの発泡樹脂製品、電線被覆材などとして使われるコンパウンド製品、血液浄化器やカテーテルなどの医療機器製品、塗料・コーティング剤・接着剤などのベースポリマーとなる特殊塩化ビニル樹脂など実に幅広い。甲子園球場10個分の敷地にいくつもの工場建屋が並んでいる。

64 カネカ2.jpgコンパウンド製品


 単にモノを生産するだけでなく、画期的な製品開発、スピーディな事業化、コストダウンの実現などバリューチェーン(価値連鎖)全体で付加価値を付ける役割を担っている。研究開発部門との連係能力が鍵だ。
 研究開発と製造の一体運営を加速するために、大阪工場内に大阪研究エリアがつくられ、カネカの主要研究部門が集約されている。研究開発と製造の物理的な距離を縮め、製品開発だけでなく実験や生産技術、プロセス革新などを一体となって進めようとする狙いだ。
 この大阪研究エリアには先端材料開発RDセンター、発泡樹脂RDセンター、生産技術RDセンター加工技術開発グループ、医療事業部医療器研究グループなどが設置され、製造との連係が強化されている。
 研究開発と製造が一体化する日本のモノづくりの方向性は、合理的な方向性ではある。日本にモノづくりが残るためには、付加価値の高い製品が開発され、日本の現場力を活かした付加価値の高い製造を行う必要がある。どこでも、誰でもつくれるコモディティが日本に残ることはない。
 しかし、そうなると化学のようなプロセス産業では、日本の製造拠点は研究開発と一体化したパイロットプラント的な位置付けになる。量産工場は市場が存在する海外に建設するという流れだ。
 こうした流れは一見合理的に見えるが、次のような問題提議もある。「事業化の初期段階でパイロットプラントとして機能し、量産になったら海外に持っていく。それで本当に"マザー工場"と言えるのか?」。
 実験機による試作と実機による量産には深くて、大きな溝がある。その溝を埋めるプロセス革新、生産技術力こそが日本のモノづくりの力だ。これが分断されてしまったのでは、真のモノづくりの力にはならない。
 しかし、地産地消の大きな流れは変わっていない。そうした中で、日本のモノづくり拠点はいかにマザー工場としての役割を果たしていくのか?その答えはけっして簡単ではない。
 自動車や住宅などの受注が回復し、大阪工場はフル生産の状態が続いている。輸出も回復しつつある。製造現場を見せていただいた断熱材「カネライトフォーム」も住宅建材用などの需要が堅調だと言う。
 断熱性に優れ、吸水性が低いこの製品は、より快適な生活空間をつくる上で多様な可能性を秘めている。この製品を活かした「カネライト畳」は夏涼しく、冬暖かい省エネ向きで、需要が伸びていると言う。まさに「ガクでガイをナエル」好例と言える。


64 カネカ3.jpgカネライト畳


 「広さ」と「深さ」を兼ね備えるカネカ独自のビジネスモデルを如何に進化させていくのか?それは日本のモノづくり企業の未来の絵姿でもある。




訪問先

株式会社カネカ 大阪工場

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