第65話 サンドビックツーリングサプライジャパン株式会社瀬峰工場(再訪)

 スウェーデンのエクセレント・カンパニー、サンドビックの瀬峰工場を再訪した。初めての訪問の模様は「現場千本ノック」第6話で紹介している。
 宮城県栗原市に立地する瀬峰工場は1976年の設立。切削工具用の超硬チップを生産している。


65 サンドビック (1).jpg工場前景


 スウェーデン本社が一旦は工場の閉鎖を決定したが、退路を断った取り組みによって工場の変革を実現。今ではサンドビックグループ内で世界三大工場のひとつと位置付けられている。
 その改革の物語は、サンドビック日本法人社長である藤井裕幸氏が出版した『究める力』(ダイヤモンド社)に詳しい。たとえ小さなことでも、平凡に見えることでもそれを深め、究めることができれば、大きな競争力にすることができる。瀬峰工場の取り組みはそれを実証している。
 とりわけ瀬峰工場の白眉は、「5Sの徹底」である。これほど5Sが徹底されている工場を私は他に知らない。その5Sがどのように進化しているのか?今回の訪問の興味はその点にあった。
 お話を伺った鈴木幹治社長はこう教えてくれた。「5Sの取り組みを始めて13年になる。2007年頃からようやく本物になり、今では風土・文化として根付いている」。
 さらに5Sの意義をこうも語ってくれた。「5Sは人の心の乱れが表れる。集中力が欠けていたり、モチベーションが下がっていると、それが5Sにもろに表れる」。
 5Sの基本は、身の周りの身近なところから徹底させることである。たとえば、オフィス部門の社員の机の引き出しを開けると、文房具類がものの見事に整理されている。それぞれの形に合った凹凸がつけられていて、必ず元に戻す工夫が施されている。
 共用の文具類なども棚に置かれる位置が凹凸で決められていて、その位置に戻すのが習慣化されるようになっている。使ったら、戻す。開けたら、閉める。基本中の基本だが、その基本が疎かになっていたのでは、5Sが浸透するはずもない。

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文具類の5S

 そして、この思想はものの動きが頻繁で、雑然としがちな製造現場でより徹底されている。工具、備品、仕掛品、清掃用具など製造現場で必要なものは、見事に5Sが行き届き、ひとつとして乱れがない。

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製造現場の5S

 数多くの小さな治具を収めるラックには「5S作業中」の貼り紙が付けられていた。5Sの取り組みを日常的に進化させようとする現場の姿勢がこの貼り紙から読み取れる。

65 サンドビック (8).jpg5S作業中

 なんといっても私が驚いたのは、「スペアパーツ棚」である。小さなスペアパーツが1回使う分ごとに透明のビニール袋に収納され、管理されている。一般には、こうした小さなスペアパーツは引き出しに収納され、何個あるかも分からない状態で管理されている。しかし、瀬峰工場ではスペアパーツ一つひとつにまで整理整頓が行き届き、単品管理が実施されている。

65 サンドビック (9).jpgスペアパーツの5S


 5Sはこうしたモノの管理だけではない。「清掃」のレベルも驚異的である。瀬峰工場では「三越百貨店の床よりきれい」というレベルを目指し、日夜精進している。油を多量に使う製造現場でありながら、油の臭いがほとんどしない現場というのはきわめて稀である。
 壁、床、ドアは白で統一されている。それは「汚れたら、すぐ分かる」からである。「汚れたらすぐ清掃」を習慣化させ、汚染の拡大を防ぐ。
 全員の手で「5分間清掃」を毎日行う。それは「自らきれいにしたものは、誰も汚さない」からだ。
 製造現場には床の写真を載せた掲示物が貼られている。そこにはこう書かれている。「この綺麗さは、我々の誇りです」。

65 サンドビック (10).jpg綺麗さが誇り


 そして、通路には現場での5Sの取り組みを紹介する改善事例紹介が100近く貼り出されている。写真でBefore/Afterが分かりやすく紹介されており、「なるほど!現場の知恵はすごいな」と思わせるものばかりである。

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5Sの事例紹介


 これほどのレベルに達しながら、瀬峰工場はさらなる「5Sの進化」に挑戦している。それは「シャドー5S」である。
 この取り組みは、「誰も見ないところ」「誰も行かないところ」などの「隠れた場所」(シャドー)に着目し、そこでも5Sを徹底させようという取り組みである。2013年度から取り組みをスタートさせた。
 そのきっかけは鈴木社長がドイツのある自動車工場を見学したことにある。ドイツの製造現場だから表向きの整理整頓は為されている。でも、たまたま目に付いた棚の上にホコリがあることに鈴木社長は気付いた。
 表面的には5Sが行われているように見えても、人目につかないところや普段人が出入りしないところは、5Sが疎かになりがちである。「うちの工場は大丈夫か?」と感じた鈴木社長は、帰国後早速「シャドー」に着目し、5Sを徹底させる展開を始めた。
 鈴木社長と一緒に現場内の階段を上ると、そのフロアが全体から見渡せる。そこからは工場内に設置されている棚や設備の上部や天井や配管を見ることができる。そうしたところに身を置くことで、普段なら気が付かないところに目が行くようになる。

65 サンドビック (15).jpg階段上からの風景


 「人目につくところばかりをきれいにする5Sは、所詮"やらされ5S""見せかけ5S"にすぎない」と鈴木社長は語る。世界最高の現場にまで磨き上げるには、「シャドー5S」の域にまで達しなければならないと更なる高見を目指している。
 瀬峰工場で展開されている5Sは、日本企業が誇る現場力のお手本である。現場の高い意識、意欲、知恵、粘りが現場を変え、それが競争力強化につながっている。
 そして、こうしたボトムアップの力は鈴木社長というトップの本気さから生まれている。鈴木社長はこう締め括ってくれた。「トップが興味がないものは、現場には絶対根付かない。トップから何も言われなければ、現場は"これでいいんだ"と思ってしまう」。現場力はトップと現場が二人三脚で生み出すものである。
















訪問先

サンドビックツーリングサプライジャパン株式会社瀬峰工場

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