第67話 小川工業株式会社

 和歌山県橋本市にある小川工業を訪ねてきた。同社は2012年に日本科学技術連盟(日科技連)が主催する「日本品質奨励賞TQM奨励賞」を受賞した。日科技連の方から「和歌山に頑張っているモノづくりの会社がある!」と紹介を受け、今回訪問させていただいた。

67小川工業1.jpg全景


 小川工業の創業は1939年。来年75周年を迎える。売上高約44億円。従業員数約170名の会社だ。
 そのモノづくりの歴史は、「ナット」の生産から始まる。建築業界では「小川の高ナット」として知られる長尺ナットが同社の原点とも言える製品だ。
 一般のナットは誰でもつくれるコモディティだが、「長くて穴の開いている」長尺ナットは誰でもがつくれるものではない。長年磨き込んだ独自技術・ノウハウの塊のような製品だ。
 業界で初めてステンレスのロング形状貫通を成功させたり、高さ80mmの特殊品まで対応するなど、「長尺ナット」の専門メーカーとしての技術を磨いてきた。

67小川工業2.jpg高ナット


 しかし、経営として見ればナットだけでは成長に限界がある。そこで、小川工業は自動車部品へと事業の主軸を移してきた。現在では自動車部品の売上高が全体の約80%を占めている。
 小川工業が納入している自動車部品は多岐に渡っている。長尺貫通技術を活かしたサスペンション部品やシートベルト部品から重要保安部品であるオートマチックトランスミッション(AT)部品まできわめて幅広いニーズに対応している。

67小川工業3.jpg 67小川工業4.jpg
ポールパーキングなどの自動車部品


 主な納入先はアイシン・エイ・ダブリュ、ジャトコ、芦森工業などの大手自動車部品メーカーだ。中でも、ATで世界最大のシェアを持つアイシン・エイ・ダブリュとの取引関係は深く、長年に亘って「総合優秀賞」として表彰されている。
 小川工業のコア技術は、長年培ってきた「パーツフォーマー技術」と独自開発した「ファインプレス技術」だ。パーツフォーマーとは異型製品加工を可能にする横型の多段式鍛造機。金属素材を金型によって常温で圧縮成型する加工法(冷間鍛造)で、小川工業では設備に独自の改造を施し、様々なニーズに対応できる技術を磨いてきた。

67小川工業 5.jpgパーツフォーマーライン


 ファインプレスは汎用プレス機で厚板の精密打ち抜き加工を可能にした工法で、ローコストで付加価値の高い加工を可能にした。現在は更なる高見を目指し、複合加工や高精度加工に挑戦している。
 2013年には経済産業省中小企業庁が後援する「中小企業優秀新技術・新製品賞」を受賞した。これは小川工業のパーツフォーマー技術が評価されたもので、この新工法によって歩留まり率は18ポイント向上し、生産性は4倍に高まった。
 アイシン・エイ・ダブリュの主要納入先はトヨタ自動車だ。トヨタは「日本での生産300万台死守」を目標として掲げ、日本にモノづくりを残すために必死の旗振りを行っている。
 アイシン・エイ・ダブリュはそのトヨタにATを納め、小川工業がそのアイシン・エイ・ダブリュにAT部品を納めている。トヨタ‐アイシン・エイ・ダブリュ‐小川工業という「現場力の連鎖」がなければ、日本にモノづくりは残らない。大手メーカーと中小メーカーが「運命共同体」としてひとつになり、知恵を絞り続けることこそが、日本にモノづくりを残す唯一の道である。
 小川工業は競争力強化のために新たな挑戦も行っている。本社工場から車で5分ほどの高台に国内第二工場(紀ノ光台工場)を建設し、2013年6月に竣工した。ここにはパーツフォーマー機2台、200トンサーボプレス機2台を設置し、更なる能力増強、生産性向上に取り組む。
 ここではAT用のポールパーキングを生産し、年産能力を従来の2倍である600万本に拡大する。設備を含む総投資額は15億円にも上る。
 この国内第二工場がユニークなのは、新工場の隣接地に協力会社が2社立地し、一貫生産を行うことだ。後工程を担う熱処理の東研サーモテック、切削加工の北辰精工に小川工業が声を掛け、「バーチャル・ワン・ファクトリー」の実現によってリードタイムの大幅短縮を目指している。
 3社が連動し、一体運営をすることによって、これまで約40日かかった納期を3分の1に短縮することが可能だと言う。さらには、運搬コストの削減や急激な市場の変化によって在庫を抱えるリスクも軽減できる。
 単独での取り組みを越えて、関連する企業がより密な連携を強化し、全体のサプライチェーンを再構築する取り組みとして、きわめて興味深い挑戦と言えるだろう。独自技術を磨くスペシャリストたちがひとつのまとまった集団を形成するのは、日本にモノづくりを残すひとつの合理的な道だと言える。
 その一方で、小川工業は取引先の「地産地消」の動きにも対応しようとしている。広東省佛山市に現地法人である小川(佛山)精鍛有限公司の設立を決断し、2012年10月に稼働させた。
 入居したのは中小企業を対象とした工業団地で、第1期で約10社、第2期で7?8社が入る計画だという。5年後には売上高7億円、従業員数50名程度を目指している。
 現在の生産規模はまだ小さいが、パーツフォーマーによる単純形状部品の生産から始め、将来的にはプレス機を導入して徐々に複合加工品にも手を広げていく予定だ。
 国内第二工場の竣工、中国工場の立ち上げ・拡大などを成功させるためには、人づくりが鍵であることは言うまでもない。小川工業では長年に亘ってTPM活動、TQM活動などを全社的に展開し、現場力を担う人材の育成に取り組んできた。

67小川工業6.jpgTPM活動


 自ら改善を主導し、問題解決を進める人材をいかに育てることができるかどうかが、日本のモノづくり企業の運命を握っている。単なるワーカー(作業者)ではなく、「ナレッジワーカー」(知恵を生み出すことができるワーカー)を迅速に育て上げる。日本の中小モノづくり企業のお手本とも言える小川工業の未来は、まさにそこにかかっている。






訪問先

小川工業株式会社

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