中東の国カタール。建設中の高層ビルが林立する首都ドーハから車で北をめざす。緑がまったく見えない土漠の荒野を走ること約1時間15分。ラスラファンと呼ばれる町に、巨大な工業地帯が現れる。世界最大級の液化天然ガス(LNG)を産出するカタールガスの液化プラントである。
ペルシャ湾の沖合80kmに存在するノースフィールドガス田から産出されるガスを、マイナス160度で冷却し、液状化させる巨大な設備である。気体であるガスを液化させることによって、世界中へ輸送することが可能になる。巨大な"冷蔵庫"である。
このガス田は単一のガス田としては世界最大級で、その埋蔵量は200億トンと言われている。現在、世界で取引されているLNGの総量は約1億8千万トンだから、このプラントがそのすべてを供給したとしても、100年以上はもつ計算になる。
これまでにいくつもの国内の石油化学コンビナートを見てきたが、その規模は比べ物にならないほどの桁違いの大きさである。案内をしてくれた人にどのくらいの敷地面積があるのかを尋ねたら、「具体的な面積は分からないが、縦10km、横5kmほどだ」と教えてくれた。
この工業地帯に入るところに、セキュリティチェックポイントが設けられ、すべてのトラック、車は検問を受ける。カメラ、携帯電話もすべて没収され、帰りに返してもらった。(写真はすべてこのチェックポイントを通過する前に、車の中から撮影している。写りが悪いのはご容赦いただきたい。)
プラントを見学する前に、事務棟でプラントの概要について説明を受ける。一番最初に説明を受けたのは、ガスマスクの使用方法だった。ここがガスプラントであることをあらためて意識した。
応接室の壁には「Qatargas 10 golden behaviors」というプラント内の行動基準が貼り出されていた。安全に関する基本の徹底は万国共通だ。
このプラントにはQG1(カタールガス1)からQG4(カタールガス4)まで4つの生産設備がある。QG1とQG2は既に稼働しており、QG3とQG4は2010年末に稼働を開始するという。4つの設備がフル稼働すれば、その生産高は7,700万トンに達するという。
その後、プラント内をマイクロバスで移動する。気温50℃ではとても歩いて見学というわけにはいかない。設備は巨大だが、組み立て工場のように機械や人が動いているわけではないので、とりたてて面白いわけではない。
しかし、気温50℃を超える灼熱の土漠で、このような巨大プラントの建設を成功させた男たちの「物語」を頭の中で思い浮かべていた。建設のピーク時には、約6万人がここで働いていたという。そして、その多くはインド、パキスタンなどからの出稼ぎ労働者だった。
このプラントのエンジニアリングは、QG1からQG4まですべて千代田化工建設が担当している。LNGの貯蔵タンクはIHI(石川島播磨重工業)製である。日本の技術の粋がこの灼熱の地で息づいている。ちなみに、カタールでは新たな空港の建設が進んでいるが、その建設を請け負っているのも日本の大林組、鹿島である。
プラントを見て回った後に、プラント全体の制御・管理を行っているコントロールルームを見学した。数えきれないほどのモニターが設置されており、24時間体制で監視が行われている。常時約20名ほどがこの場所に詰めている。
その後、LNGを船に積み込む港を見学する。巨大な"魔法瓶"にたとえられるLNG船が停泊している。輸出先は日本以外に、中国、北米、イギリスなど世界中に拡大しているという。港の説明をしていただいたのは、商船三井の現地駐在員の方だった。
普段、日本で生活している時にはまったく意識しないが、カタールと日本はエネルギーで深く結びついている。そして、その結びつきを可能にしているのは日本の高い技術力であることを再認識した。
日本には世界のインフラを支える高度な技術力がある。そして、それは新興国の発展に大きく寄与できる可能性を秘めている。
しかし、高い技術力を誇っても、それだけではビジネスとして成功しない。
アブダビ首長国の原子力発電所建設の入札は、韓国勢にさらわれた。新幹線の海外への売り込みも、政府主導で攻勢をかけるドイツやフランス、中国に劣勢を強いられている。
事業の成功には「技術力」と「営業力」は常に二本柱である。カタールでの成功も千代田化工建設やIHIの高い技術力と三井物産を中心とした高い営業力が結びついた成果である。
官民を挙げた国家としての「営業力」の強化。日本の高い技術を活かすために、営業の現場力こそが今、問われている。