第4話 コープさっぽろルーシー店

 北海道に元気のいい小売業がある。それは生活協同組合コープさっぽろである。単に元気がよく、業績を伸ばしているだけでなく、現場に根差した地道で堅実な取り組みは小売業のお手本であり、環境やCSRなど先進的で創造的な取り組みが注目を集めている。

 事業高2442億円。道内28市16町に106店舗を有している。組合員数130万人。道内約750社のメーカー、流通業者とネットワークを形成している。

 設立は1965年。「消費者の手で真に消費者の利益を守る流通業を作ろう」という理念の下、札幌市民生協としてスタートした。

 実は、コープさっぽろは約10年前、倒産の危機にあった。北海道拓殖銀行が経営破綻した1998年には43億円の赤字を計上。翌年、翌々年もそれぞれ20億円、28億円の赤字が続き、まさにどん底の状態だった。

 900億円というな債務を抱え、2500人いた正規職員の内1000人をリストラせざるをえないというきわめて深刻な状態だった。北海道経済が長期的低迷に陥り、コープさっぽろもまったく先が見えない状況だったのである。

 小売業の復活に秘策はない。店舗の再編、閉店を進める一方で、地域密着の店づくりを地道に進めていった。

高齢化が進み、ひとり暮らしの年配者が増える中で、「5個入りのグレープフルーツ」など買わない。供給者の論理であったことを反省し、1個ずつ販売するやり方に変えた。

その一方で、70過ぎのおばあさんが「1800円の中トロ」を買っていく。追いかけて「これは誰と食べるんですか?」と尋ねると、「私ひとりよ。私が食べるに決まってるじゃない」と返事が返ってきた。

年配者は可処分所得が高く、食に対する意欲が大きいことに気付かされる。品揃えを見直すきっかけとなった。こうした顧客起点のきめ細やかな店づくりは、徐々に効果を上げていった。

今回訪問したルーシー店は、コープさっぽろの旗艦店のひとつである。標準的な店舗の売上高が20?25億円という中で、55億円を売り上げる。平日で5千人、週末には1万人が来店する。


4 コープサッポロ1.jpgルーシー店全景


流行っているお店にはいくつかの共通点がある。まず、店頭の販売スタッフから威勢のよい声が聞こえること。小売業の原点は「市場」である。威勢のよさは扱っている商品の鮮度のよさでもあり、消費者の購買意欲を掻き立てる。

二つ目は、こまめに商品が補充され、欠品がないように保つことが重要だ。回転率が高く、足の速い牛乳売り場を見れば、よく分かる。

そして、トイレが清潔で、掃除が行き届いているかどうか。小さな花一輪でも飾ってあれば、そのお店の姿勢が見える。

ルーシー店はいずれも合格点だった。とりわけ、販売スタッフが来店客と親しそうに話し込む姿がここかしこで見受けられた。販売スタッフと来店客が笑顔で話す姿は、地域に愛されている証しであり、店頭品質の現れでもある。

コープさっぽろは、日本で最も「改善」に熱心に取り組んでいる小売業のひとつである。その徹底度合いはすごい。

2006年から「かいぜんのカード」という取り組みをスタート。毎年元旦に全職員、パート職員が改善提案を書くもので、2010年1月末までになんと1万2千枚もの「カード」が集まった。現場の思い、気付きが「カード」という形で「見える化」され、それをもとにした全社的な改善の取り組みの輪が大きく広がっている。

4月には全20ページの「かいぜん新聞」が発行され、提案内容の紹介、分析、そして本部の対応方針、回答が実にきめ細かく記載され、現場にフィードバックされている。ここまで徹底されている例はきわめて稀である。

4 コープサッポロ3.jpgかいぜん新聞

こうした「改善」スピリットは、店頭での活動にも反映されている。ルーシー店でも「お客様の声」を吸い上げる活動を展開しているが、1週間で10枚程度寄せられる「声」には直ちに対策が検討、実行される。そして、その取り組みは店内に「見える化」され、共有されている。また、全店の「お客様の声」はすべて毎月の理事会に報告されている。


4 コープサッポロ2.jpg4 コープサッポロ4.jpg

      「お客様の声」の見える化            改善成功事例の見える化

こうした地に足の着いた地道な取り組みの一方で、コープさっぽろは先進的な取り組みにも挑戦している。戸別に毎週一回、商品を届ける宅配事業「トドック」の事業規模は666億円。利用者は26万世帯。なんと北海道全世帯の1割が利用している。1回の利用高は5千円とけっして小さくない。

「トドック」を運営するために、全道で850台の軽車両を所有し、1台当たり50?60軒を決められたコースで効率的に配送している。また、リアルな店舗との組み合わせなので、宅配専用の在庫を持つ必要がない。大手小売業が盛んに進めようとしているネットスーパーが軒並み赤字を計上する中で、独自のビジネスモデルを構築している。

コープさっぽろの改革を牽引している大見英明理事長(2007年就任)は、環境対策にも熱心に取り組んでいる。先進的な取り組みをしているイギリスのテスコなどから学び、全道106店舗、33カ所の宅配センターから出る段ボールや資源有価物を回収し、再処理する「エコセンター」を2008年に開設。それまで10万トン排出していたCO2を、1万2千トン削減させることに成功している。

大見理事長は「北海道でエコをやったら、イギリスに勝てる。寒冷地対策として取り組んできた建築やエコ断熱技術など日本の方が進んでいる部分がたくさんある」と語る。

戦略的、先進的なビジネスモデルと地に足の着いた現場力。北の国で日本の小売業の未来のモデルが生み出されようとしている。


訪問先

コープさっぽろルーシー店

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